共催:Airbnb Japan株式会社 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 株式会社日建設計
  後援:株式会社新建築社
  

最新情報

2018年2月1日
「審査講評」ページをアップしました。
2017年11月20日
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2017年10月18日
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2017年7月3日
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過去のコンペ

テーマ座談会

第2回目となる都市のパブリックスペースデザインは、第1回目から体制を変え、Airbnb Japan、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、日建設計の3社による共催で行われます。各社のパブリックスペースへの考えや取り組みを伺った後、審査委員長の岸井隆幸氏、審査委員の西沢立衛氏、齋藤精一氏、谷川じゅんじ氏から、今回のテーマの鍵となる、都市のスキマやシェア、多様性といった事柄について、それぞれの考えをお話いただきました。[編]

 

都市の「スキマ」を再定義する

パブリックに対して、共催3社内でも様々な方向の可能性を考えられています。まずは前回を振り返りながら、今回のテーマにおける可能性を伺えますか。

岸井|前回は、「都市のパブリックスペース」という大きなテーマから学生の方々に考えてもらい、道路や公園を対象にした提案だけでなく、建築自体がパブリックだという提案もあれば、建物の脇にある空いた空間がパブリックとなる提案もありました。パブリックとは何かという、そもそもの問いに対して様々な回答を得られたと思います。
今回は「スキマ」がテーマですが、本来、全ての土地や空間は権利設定されているため、都市にスキマは存在しません。つまり応募者の方々には、そもそも都市にとって「スキマ」とは何かについて考えてもらうことになります。例えば、土地の所有権はありながら法規制に縛られて使えなくなった場所を対象にしたり、あるいは、都市の更新のために、建物で埋め尽くすのではなく、意図的にスキマを維持しておくべきだという提案もあるかもしれません。また、人びとのニーズを喚起させる仕組みと共に考えることも、発想の起点になるかもしれません。
例えば、紹介にあった「柏の葉アクアテラス」は、調整池という公的な土地と開発をオーバーラップさせることで親水公園を生み出しています。また、隣接するT-SITEと一体に活用されていますよね。民間と公共の土地が接するところは、お互いに自分の領域のいちばん端だと思うとスキマにしかなりませんが、そこで何かやれると考えれば、色々な仕掛けを起こせる可能性があると思います。


西沢|近代主義建築は、「機能」によって物事を整理できると考えてきました。住宅なら「食べる」「寝る」というふうに機能別に分解することで、住宅の意味を明快に理解できる。「使えるかどうか」という尺度は、ものの価値を測る上ですごく分かりやすくて、ずいぶん役に立ちました。建築の世界以外でも、「使えるか使えないか」という切り口で、ものの価値を相当理解できます。これにはよい面と悪い面が両方あり、都市空間について言えば、「使えるかどうか」ではその価値を説明できない部分が多くあります。かつて水運で栄えた町があり、そこでは川は「使えるもの」だったのですが、陸路の時代に入った今は、それほど大きな川はもう要らないので、水運の時代を知らない新しい人から見れば、町のど真ん中に何かやたらとでかい水があるな、というようなものになる。ただ、その川は今も皆に愛されて、町の魅力であり続けていたりもする。そういう川の価値は、使えるかどうかでは測れません。「使えるかどうか」の視点で計るとそれほど高得点にはならないけど、でも魅力があり、人びとに愛されている、という路地や広場、建築はたくさんあります。「スキマ」もそんな面があるのかなと思います。都市のような、何世代にもわたって存在し続けるものの魅力とは何なのかを考えると、今使えるかどうかだけではなく、もっと多様な価値観があるのだろうと思います。

 

非物理的な「スキマ」を考える

今回から参加される齋藤さんと谷川さんはいかがでしょうか

齋藤|私は元々、コロンビア大学で建築を学んでいましたが、辞めて広告業界に移ってからはほとんど建築の仕事をしていませんでした。その後ライゾマティクスを立ち上げ、データを活用しながら都市を活性化するなど、建築に関わる活動も多くなってきました。
今回のテーマは、今の時代だから考えられることだと思いました。昔、東京理科大学で教えていた時、建築学科の学生は、美術館なら美術館、駅なら駅といった用途に合わせてた計画はできるのですが、ソフトに対する考えはあまり明確ではないと思ったことがありました。でも、今の時代は建築はただ設計するだけでなく、例えばAirbnbが行っているような使いたい人と持っている人をパズルのように合わせることや、今回のテーマであればスキマをどうやって見つけるかといったソフトの部分も、広義の意味で建築として位置づけられると思います。そういう意味で、テクノロジーを使ってこそアプローチできることもあります。今回のテーマは、建築に関わる人だけでなく、例えばアプリを制作するスタートアップの人たちも参画できるのではないでしょうか。
私にとっていちばんのパブリックスペースとは、インターネットだと思っています。昔はサン・マルコ広場のような場所で行われていたディスカッションが、今はインターネット上で起こっています。これまでは、都市の物理的なレイヤーと、非物理的なレイヤーは別のものとして捉えられていましたが、ネットで空き部屋を紹介するAirbnbや配車するUberなどはそれらをうまく繋げています。こうした動きは、最終的に街づくりのひとつのエンジンになるだろうし、都市開発など人を大きく動かすことにもなるかもしれません。日本社会は縦割りで構成されているため、各業界が横に繋がることが少ない。そういった部分にもよい意味でのスキマが生まれていると思います。そうしたスキマの見つけ方自体にも提案があると面白いですね。


谷川|私はJTQという会社を始めて16年目になります。テーマパークの運営から始まり、空間デザインの会社へ移り、場をつくる仕事を長くしてきました。今は幅広いクライアントと共に、空間構成の根幹となるコンセプトづくりをメインに、仕組みの構築やデザインなどを手がけています。
私は、空間=体験だと考えています。体験が紡ぎ出す記憶はさまざまなものに影響を与えています。最初にどういった期待を持ってもらい、印象をデザインし、最終的に記憶に定着するかが大事で、これがその空間をリピートしてもらうことに繋がります。リピーターはコミュニティを生み、コミュニティはみんなで同じものをシェアする感覚を生み出します。これは物理的な場合もあれば、インターネット上で非物理的に形成される場合もあります。今はその両方が密接に絡み、無数の多種多様なコミュニティの集合体が、都市を形成する時代だと思います。
情報化社会と言われて久しいですが、さまざまなチャンネルを通じて個人の日常生活空間の情報流通量の増加は留まるところを知りません。情報の大海で興味のある情報に出会える状況をつくる近道は、まわりまわって人と繋がることが最も重要な状況になったと言えるでしょう。そうなると、パブリックとプライベートは循環し、ソーシャル的な仕組みをデザインとして可視化させることで、みんなの期待を集めるスキマが浮き彫りにできるとも言えるのではないでしょうか。


岸井|去年は建築的な提案が多く、プロセスやソフトの提案はあまり出てきませんでした。建築を考える人たちは物理的なスキマに意識が向きがちですが、社会のニーズに応えられていないスキマもあるのではないかということですね。アクティビティのスキマについて、考えてもらってもいいかもしれませんね。


谷川|古典的な日本の空間で考えると、パブリックとプライベートの境界が曖昧で、たとえば間仕切りの障子や襖は紙でできていて、破ろうと思えば指でも破ることはできるけど、破らないというのがルールになっていますよね。そのように、意識の中に定義された境界によって、暮らしが形成されていた感覚が、今もどこかに残っているのではないでしょうか。スキマも、ひょっとすると物理的な場所というよりも、みんなの意識の中から抜け落ちている構造のことかもしれません。

 

多様なパブリックスペースの可能性

西沢|みなさんの話を聞いて、スキマには空間だけを指しているのではなく、多様な観点があると思いました。今の時代は、宿泊するにしてもホテルに泊まるのではなく、Airbnbなどを利用して例えば農村でしか得られない体験に価値を見出す人も増えています。暮らし方についても、30年以上前の昭和の頃には、郊外に木造2階建ての5LDK、駐車場2台というのが共通認識でしたが、今は古い建物を買って自分たちで修繕して住宅にしたり、あえてオフィス街に住んだりと、多様な住まいの可能性をいろいろな人が実践して、そのよさを共有できる時代になっています。自分の視点からでは無意味にしか見えないものも、別の角度から見ると意義のあるものになるかもしれない。多元的な考え方が浸透して、これまでとは違う「価値の多様化」が訪れていますよね。


齋藤|最近、デベロッパーと仕事をすることが多くなっているのですが、その時、地域の生活者のことを「住民」と一括りで扱うのはやめましょうという話をします。調べると住民の中にも、いろいろな人が存在していることが分かります。これまでは塊でしか捉えられなかったものが、今はテクノロジーによって分解して見ることができる時代です。細かく理解すると、それぞれの多様な価値が見えてきます。若者の中にもたくさんの価値観があって、その集まりを私は「部族」と呼んでいますが、彼らの好きなこと嫌いなこと、合うか合わないかを見つけていくと、部族の数だけ違う価値が出てきます。ひとつの部族がたとえ3人だとしても、その3人をきちんと尊重できる時代になってきていますよね。


谷川|21世紀に入って、自分と情報の結びつきが大きく変化したことが多様化の波を起こしたと思います。自ら調べることが出来るようになり、次第に情報に対する個人のリテラシーも習熟していきます。その中で、ライフデザインを考える時に、誰かのものを少し借りてみたり、誰も考えなかったスキマを活かして新しいことをやってみることもあるかもしれません。また今は自分がよいと思うものを、どんどんみんなにシェアする時代です。社会の現状を見据えた上で、こうなったらいいなと思う未来を可視化して、提案することがとても大事だと思います。
少し前ですが、ニューヨークのハイラインができた時はとても驚きました。誰も寄り付かなかった鉄道跡地を公園にすることで、周りの街に活気を生み出しました。しかもそれが寄付によって成り立っているのです。特に計画地域周辺に土地を持つ人たちからの寄付が多かったといいます。開発により地域が活性化すれば結果的に自分の資産価値が上がるwin-winの仕組みができています。膨大な情報に晒される今の時代において、あらゆる場面で仕組みをうまく構造化する事業力が求められている気がします。

2点:ハイライン(『a+u』1312)。
マンハッタンの廃線になった高架橋を利用した公園。


岸井|シェアリングの概念に関わるのが「検索」だと思います。今は誰でも自由に「検索」という仕組みを使えますが、検索というのは提供する側がある程度操作することができる。人がそれを信用しなくなった途端に、再びフェイストゥフェイスの人間関係に戻っていくのではないでしょうか。


谷川|1980年代にインターネットが出現し、1994年にYahooがカテゴリーの概念を初めてインターネット上で定義付けし、情報を与える仕組みができました。1998年にはGoogleが誕生して、サーチの概念を生み出したことで、今度は自分で情報を探すという能動的な状態に変わました。2004年にできたFacebookは、コネクト、つまり人と人との繋がりに、さらに色々な情報が紐付ける状況をつくりました。この次の可能性を考えた時に、今ではハッシュタグが検索の手段になっていますが、これは面白いことを可視化するひとつのトリガーになります。今はインターネットの世界だけで使われていますが、AIなどの最先端技術を駆使することで、物理的な都市の環境下にも出てくるでしょう。そうなると都市空間がもっと面白くなりますよね。


西沢|図書館と美術館を合体させたり、住宅を共有したりと、今、世の中では色々な試みが起きています。既存の施設をたたき台にして、新しい施設、新しい用途のようなものをつくり出そうとしているように感じます。そういう色々な試行錯誤のなかから新しい時代のイメージが出てきたりするのではないかと思います。


岸井|今回は共催者も審査委員もさまざまな分野から集まっているので、多様な観点から講評することになるでしょう。建築や都市計画の専門家だけではなく、違う分野の人たちからの応募も期待したいです。他分野間で協同したり、そうしたところからイノベーションが起こると面白いですね。まずは、スキマとは何なのかという問いから幅を広げて考えてもらえればと思います。

[2017年6月6日、NIKKEN ACTIVITY DESIGN labにて 文責:『新建築』編集部]

 
 

Airbnb

Airbnbは「Belong Anywhere」をコンセプトに掲げ、全ての人が旅行先に「Belong(帰属)」し、暮らすように旅ができる環境づくりを目指しています。日本では現在、民泊と聞くと既存の宿泊施設の安い代替手段と捉えられがちですが、われわれは新しい視点からその都市を体験し、地元コミュニティを深く知るための手段となると考えています。プライベートなスペースにアクセス権を提供することでその一部がパブリック化し、これまでのプライベートとパブリックの垣根を超えた新しい街づくりの可能性が見えてきます。また、既存の街を活かしながら新しい価値体験を提供する例として、社内のデザインスタジオ「Samara」が長谷川豪氏とコラボレーションして、奈良県吉野町でコミュニティハウスをつくりました(吉野杉の家)。1階部分は地元の人とゲストが交流できる場として使用し、2階部分は宿泊のスペースになっています。こうした取り組みの中で、地域コミュニティとAirbnbのグローバルなコミュニティを繋いでいくことで、日本の社会に新しい仕掛けを生み出していきます。さらに東京オリンピックを目前に、空き部屋の有効活用がひとつの手段として注目されています。地域に根差した日本ならではの宿泊のあり方を、今回のコンペテーマである「スキマ」からヒントを得て、考えたいと思っています。 

[長田英知/Airbnb Japan]

上:吉野杉の家(本誌1705)。奈良県吉野町とAirbnb、建築家の長谷川豪氏との協働で建てられたコミュニティハウス。
下:宿泊施設の他、滞在先ならではのさまざまな「体験」の提供も行なっている。
下2点提供:Airbnb

 

カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)

CCCでは、TSUTAYAをはじめ、Tカード、蔦屋書店や図書館事業など、さまざまな取り組みを行なっています。例えば「武雄市図書館」(本誌1307)では既存の図書館をリノベーションし、図書館の他にカフェや商業機能を入れています。武雄市図書館の来館者数は、このリノベーション後の4年間で大幅に増加しており、周辺地域の活性化に大きく寄与できていると考えています。しかし観光客の多くが福岡など他の都市からの日帰りで、宿泊場所が少ないことも課題になっています。その解決策のひとつとしてホームシェアリングが考えられます。そういった地域への貢献を目指して、Airbnbと2015年4月からパートナーシップ契約を結んでいます。もうひとつの事業として、データベースマーケティング事業を行っています。元々レンタルの会員証からスタートしましたが、現在約170社で利用でき、6,300万人の利用者がいる共通ポイントカード「Tカード」となっています。Tカードは、誰がいつどこで、何をどれくらい買ったのかということを軸に、さまざまな分析をすることができます。購買の傾向やライフスタイルの好みをデータ化し、CCCが持つさまざまなアプローチ手段をもって、サービスや商品など、お客さまに興味がある情報を届けることができます。今回のコンペではデータの活用といった点でも、人と人を繋ぐものの答えを見つけ出せるのではと期待しています。

[山﨑史郎/カルチュア・コンビニエンス・クラブ]

上:武雄市図書館
下:2017年4月にオープンしたGINZA SIX(本誌1706)内の銀座蔦屋書店

 

日建設計

日建設計では、近年都市の中のパブリックスペースが持つポテンシャルに着目した、憩いの場の創出や周辺環境の価値の向上に寄与するような取り組みに力を入れています。「柏の葉アクアテラス」(本誌1705)では、これまで人が立ち寄ることができなかった調整池を事業主である三井不動産や、柏市、柏の葉アーバンデザインセンター(UCDK)など、官・民・学が一体となって親水公園として整備しました。そこに面して、CCCの柏の葉T-SITEが開業し、アクアテラスと一体となった使われ方が人気を呼んでいます。また昨年、日建設計東京ビルのピロティ部分にカフェテーブルやカウンターなどを設け、普段は前を通りすぎるだけだった人たちが気軽に入ってもらえるような場所をつくりました。オフィスという閉ざされた空間を地域に対して開くことで、周辺の企業や住民に新たな繋がりを生み出せたと思っています。
今年はAirbnbとCCCと共にこのコンペを共催することで、パブリックスペースのかたちやデザインだけではなく、使い方や価値の持たせ方などに一歩踏み込んだ、新しいダイナミックな提案が生まれることを期待しています。

[大松敦/日建設計]


上:柏の葉アクアテラス。人の立ち入れなかった調整池を親水公園に整備している。
下:日建設計 東京ビル。近隣のためのカフェスペースとして開いた時の様子。
2点提供:日建設計