主催:株式会社日建設計   後援:株式会社新建築社
  

最新情報

2017年4月27日
「2次審査結果発表」、「審査講評」ページをアップしました。
2017年4月20日
「公開2次審査観覧希望者募集」を終了しました。
2017年1月27日
「1次審査結果発表」、「公開2次審査観覧希望者募集」ページをアップしました。
2016年12月6日
応募登録の受け付けを終了しました。
2016年9月1日
ホームページをオープンしました。
応募登録の受け付けを開始しました。
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審査講評

審査委員長
 

岸井隆幸

今回はパブリックスペースが課題であったが,「どの空間を対象にするか」は応募者に委ねられていた.結果として,道路・河川・公園などの公共施設を取り上げた作品もあれば,建築敷地の中のヴォイドスペースにパブリックな意味を見出そうという作品,そして建築物そのものが持つ公共性に着眼した作品など,355点の応募があった.まずは多くの若い人達が,パブリックに対して高い関心を寄せてくれたことに感謝したいし,特にプレゼンテーションに残った10作品には心から祝意を表したい.ただ,残念なことは,こうした多様な空間領域を包括的に取り上げて解く提案,あるいはその空間を使う主体を強く意識した提案が少なかったことである.これからを担う若い人達には「敷地の中の建築」から脱皮をしてほしい.建築を越え,敷地を越えて,公共施設の改変も視野に入れて,都市・敷地・建築・担い手の関係を提案する.「都市と建築を一体的に設計する」,今回のコンペがそういう発想のきっかけになれば幸いである.

審査委員
 

西沢立衛

都市のパブリックスペースという課題の下,さまざまな公共空間の提案が集まった.どれも実力は伯仲していて,最優秀賞を決めるのは簡単ではなかった.そのなかでも僕は,長野の市街地を再編成してゆく「浮かび上がる小さな街かど」を推した.いろいろな意見は言ったが,作者たちの街への愛情,思いやりが根底にあることが,素晴らしかった.カラカス・ファベーラ地区で図書館を提案した「Tomorrow」は,建築物の設計として最も突出した作品だった.大阪の太閤路地をテーマにした「街を記憶する丘」も評価できる作品だ.墓地横公園を改造した「記憶の遺場所」は,死生観をテーマにするその姿勢に共感した.
どの案も着眼点がよく,共感したが,他方で偏狭的というべきか,公共空間としての強さやタフさを感じられなかった.もっと雄大に,スケールの大きなものをつくっていく勇気と豊かな想像力を期待したい.

 

宮城俊作

パブリックスペースにもローカリティがあってよいのではないか,それが審査にあたっての私の仮説であった.実際には,2次審査に進んだ10作品には,最優秀を獲得した作品をはじめ,そのことを実直に反映した提案がいくつか見られた.一方において,対極にあるような普遍的な仕組みやプログラムを提案したものもあり,考え方の幅の広さと多様性には注目するべきだと思う.結局,都市空間における「パブリック」の意味は,その場所を意識する人,利用する人,そしてそのあるべき姿を提案する人によって大きく異なるという,至極当たり前のことを再認識することになったわけだが,逆に,その幅の広さや多様性の中で,デザイナーが自らの立ち位置を常に確認しておくことの大切さにも気づかされたように感じた.パブリックスペースの普遍性とローカリティ,言い換えれば想念であるコンセプトと実存する現場,その狭間における葛藤を通じてのみ,次の時代のヴィジョンを映し出すことができるのではないだろうか.

 

吉見俊哉

1次審査を通過した10作品はいずれも魅力的な発想に満ち,甲乙付けがたかった.国内からと海外からの応募案に顕著な違いがあった.国内作品は概して環境に細やかな配慮があり,現状の都市形状をあまり変えずにリノベーションや隙間の活用を重視していたのに対し,海外作品はパブリックスペース概念への大胆な提案が含まれていた.日本の若者は「優しく」なっていると改めて感じるが,もう少し都市への攻撃性を持ってもいいのではないか.もちろん着眼点はユニークで,音環境や自然や死者との繋がり,歴史的記憶の可視化,鉄道と街の関係など,いずれも将来性を感じる.パブリックスペースを過去や自然,死,ざわめきに開かれた場として構想するアイデアはとてもよいのだが,そのことで未来の都市概念がどう変わってくるのかをもう少し深く考えてほしかった.死者や動植物,過去,切断されてきた他者と繋がる場としてのパブリックスペースを,既存概念を脱構築するような仕方でデザインできたら,どの作品もさらに大きなインパクトを持つだろう.

 

亀井忠夫

本コンペは,岸井先生との雑談から生まれたものであったが,私自身,都市デザインを再考する上で非常によい機会となった.最優秀賞・優秀賞に選ばれた4作品は,いずれも着眼点が新鮮であり,また非常に建築的なものから,システムや法制度に関わるものなど,幅広さが感じられ,扱うスケールもさまざまであった.長野の街路パターンは奇妙だと以前から感じていたが,最優秀賞「浮かび上がる小さな街かど」は,その謎を解き明かしてくれた.昔の水路の名残りによる三角形状の土地への着目から,アーバンデザインに展開していこうという姿勢に共感した.「The Ephemeral Line」は,建設が順調に進まないバスレーンをテンポラリーに利用しようとする現実的な案で,これに類する状況は都市で数多く起こっていることであり応用が利きそうに感じた.「街を記憶する丘」は,大阪の「筋」と「通り」に着目し,公開空地のあり方を捉え直し,太閤下水だった大阪の路地ウラ空間をオモテにしようとする発想が新鮮であった.「Phantom Surface」は都市のアクティビティを支えるインフラをグリッド状に配置する提案であるが,単なる広場のインフラを超えた,都市そのものを変えるインフラになるのかがポイントだと感じた.このコンペが,建築~都市をシームレスに考える刺激になればと思う.