主催:大東建託株式会社  後援:株式会社新建築社

最新情報

2017年3月27日
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2017年3月9日
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2017年2月17日
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過去のコンペ

テーマ座談会

※テーマ座談会の模様は動画でも配信しています。この欄の下をご覧ください。

 

進化する賃貸住宅

小泉雅生×五十嵐淳×鍋島千恵×小林克満

「賃貸」を主題としたコンペ第5回目の開催に先立ち,審査委員の方々に,これまで開催された第1回(テーマ:風景をつくる賃貸住宅),第2回(テーマ:新たな「賃貸住宅」を考える),第3回(テーマ:40年後の未来の賃貸住宅),第4回(テーマ:賃貸住宅の公)を振り返っていただいた後,今回の課題テーマについて話し合っていただきました.(編)

 

第1回〜第4回コンペを振り返って

──過去4回のコンペを振り返り,今回のコンペでどのような方向性が考えられるか,皆さんと話していきたいと思います.

小林  今年で第5回目を迎えられることを大変嬉しく思います.「5」という数字には区切りの意味があるので,これまでの成果が定着し,新しいステージへと進む回になると期待しています.過去4回を振り返ると,毎回新しい視点の提案があり大変刺激を受けました.このコンペに複数回応募していただき,回を重ねて賃貸住宅への提案を深めて最優秀賞を取られた方も出てきました(第4回最優秀賞「空の賃貸」山本至・稲垣拓).

小泉  過去4回の提案を振り返ってみると,どのテーマにおいても住空間の「シェア」を扱った応募案が多く出されていた気がします.社会的にも関心事である「シェア」を,今回はあえて必須条件として,その先の展開を考える「新たな」シェア居住のための提案を求めるというのも面白いのではないでしょうか.それから,もうひとつの案として,超短期での利用を目的とした賃貸住宅というのはどうでしょうか.賃貸住宅はもともと期間を限定した仮住まいのイメージがありますが,ホテルよりは滞在期間が長い.最近ではホテルと賃貸住宅の中間のような民泊も取り沙汰されています.近年急速にインバウンドが増加し,2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて,そういった短期居住へのニーズも高まっています.短期間居住にテーマを絞ると面白い提案が出てくるのではないかと思います.ずっとシェアし続けるとなるとちょっとしんどいけれど,超短期であれば,シェアも受け容れられる,というケースもあるのではないでしょうか.また,ホテル的なサービスに焦点を当てた提案も求められてくるでしょう.現在のシェア居住の原型は,北欧で始まったコレクティブハウスにあると思いますが,家事を代替するホテル的なサービスが提供される住まいというものがそのスタートでした.賃貸住宅における時間軸を変えてみると,さまざまな可能性が見えてきそうです.

 

時代に合わせた居住スタイルの,その先へ

小林  仮に「シェア」をテーマにした時に,単に台所やリビングを共有するではなく,建築として賃貸住宅を再定義するような提案が望ましいですね.賃貸住宅の再定義は,大東建託がこれまで進めてきたことでもあり,今年は「DK SELECT」という新たなブランドを立ち上げました.これまで賃貸住宅専業の会社として培ってきた総合的なノウハウを活かし,住まいや暮らしにおいて賃貸の可能性をさらに進化させていくことを目指しています.そうした意味を込めて「DK SELECT」では「進化する賃貸住宅」をコンセプトに掲げていますが,たとえば,自動車業界では自動運転が盛んに試みられ,これまでとは違った段階へと「進化」しています.それに対して,住宅の「進化」を考えると,ただ単に性能を上げたり,AIと繋げてスマート化すればよい訳ではないと思います.今回のコンペでも,住宅や賃貸における「進化」とは何かを問うというのも面白いのではないでしょうか.

鍋島  小泉さんがおっしゃるように,過去4回の中に「シェア」の提案がたくさんありました.何をシェアするかによって賃貸のかたちが決定されるのは分かるのですが,結果,似通った案が多かったのが印象的でした.ハッとさせられるような空間がなかったからかもしれませんが,「シェア」の新しいかたちとは何かということに興味があります.小林さんがおっしゃる「進化」も新しいかたちをテーマにするという意味で非常に興味があります.突然変異的に生まれるものではなく,過去から現在,その後の未来へと時の流れの中で賃貸の「進化」を考えると面白いかもしれません.

五十嵐  「シェア」だけにテーマを絞るのではなく,収益性も考えるのはどうでしょうか.これまで建築家が考える理想像のようなものを基準にテーマを議論してきましたが,本来,賃貸住宅とはオーナーがお金を払って建て,竣工後にもし入居者が入らなければ,返済できずにリスクを負う場合もある訳です.だからこそ,収益性をテーマにして,収益を上げる仕組みを含めた提案をしてもらうのはどうでしょうか.設計に携わる人間はすばらしい建物がつくれたら,自動的に入居者が入ると考えがちですが,事業性を深く考えることは実際にとても大切だと思います.

小泉  収益性のみを前面に出すのは考えものです.ただ確かに収益性の話は重要で,アパートは一般的には約10年~20年程度で投資の回収を計画しますが,商業施設などではもう少し短いようです.その理由はおそらく収益性にあって,要は収益性がよければ,回収スパンが短くなり,もっと自由にチャレンジできる,ということに繋がる訳です.たとえば,今回のテーマでも,賃貸住宅で借り手がつきやすいのが築後2年程度だとすれば,そのターム毎にどんどん改修していくようなタイポロジーというのも考えられるかも知れません.

鍋島  確かに経済面を考えることも大切ですが,最終的には建築への落とし込み方が評価の軸になりますよね.建築的な提案が広がるテーマがよいと思います.

 

建築における「進化」とは

五十嵐  では,今回のテーマは「DK SELECT」のコンセプトと同じ「進化する賃貸住宅」はどうでしょうか.建築の中で「進化」という言葉はあまり聞かないので,テーマとしてよいと思います.「進化する」というと,来年の話をする人もいれば,100年後の人もいるかもしれません.どれくらい先の未来を射程距離に置くかで,アイデアが大きく変化する言葉だと思います.

鍋島  私も「進化する」という言葉に多くの可能性を感じます.今までのさまざまな住宅の変化を単に「進化」と捉えるのではなく,賃貸住宅における進化とは何なのか,建築の「進化」とは何なのか,という大きなテーマにも繋がりそうなところが面白いと思います.賃貸住宅の歴史についても振り返りながら,賃貸の多様性に繋がる提案,「新しい」かたちだけに頼らない,未来を描くことのできる提案を期待したいです.

 

──鍋島さんが少し触れられましたが,建築はこれまでに進化してきたと言えるでしょうか.

小泉  少なくとも「変化」はしてきました.ここ40~50年を見てみても,求められる性能や居住者のライフスタイルなど,住居を取り巻く状況が大きく変わったのは間違いないでしょう.ただ,自動車のケースとは違い,建築は置かれる条件がまったく異なるので,変化する方向が多様です.そのため,それらの「変化」を簡単に「進化」といってよいのか,判断がとても難しいと思います.たとえば,ドイツの住宅で,断熱性が高められたけれども,息が詰まるという理由で住民が窓を開けてしまうことがあるようです.そうすると窓から出た暖気で外壁にカビが発生し,窓の上部だけすすけたように汚れてしまう.そこで,微生物の発生を抑える塗料が開発されたのですが,今度はその塗料が雨水に溶け込んで土壌に悪影響を与えるという問題が生じてきた.どんどん新たな問題が引き起こされてくる訳です.これでは一体進化と呼べるのかどうか分からないですよね.時代と共に住空間は変化しますが,あくまでも対処療法を繰り返しているだけであり,「進化」では呼べないのかもしれない.最近増えつつある「シェア」や民泊も,時代の変化に対処療法的に応答した部分があるようにも思います.コンペの提案では,そうした対処療法ではなく,きちんと「進化」と位置づけられるかどうかが課題になります.「進化」とは,淘汰された結果として残った状態を指しています.現在の感覚で進化すべきだと思われる方向にリードしても,現実にはそのとおりにはいきません.ひとつには収斂しきれないテーマなので,いろいろな視点からの提案が期待できそうです.

五十嵐  「進化」と聞くと,なんとなく生物や植物が浮かびますが,自然物を見ていると「進化」とは多様になることだと思います.建築はまだ多様であるとはいえず,自分が設計している時も,もっと劇的に「進化」と呼べるものをつくれないかと,歯がゆさを感じることがあります.そもそも建築の「進化」とは何か,から考えてほしいです.

小泉  生物学の分野で,チャールズ・ダーウィンや今西錦司が進化についての理論を出しています.ダーウィンは突然変異で生まれた個体がたまたま変異前の個体より環境適応能力に優れていた場合,自然淘汰により突然変異個体が優勢となるという過程が繰り返されて新しい種へと進化するとしているのに対して,今西錦司は,たとえばキリンの首が長くなったことを例に,首を伸ばすという主体的な「選択」によって進化したという説を唱えています.このふたつの発想は極めて示唆的で,コンペの課題テーマで「進化」と提示するからには,そういった賃貸住宅の姿を見てみたいですよね.私たちは,突然変異的な提案を評価するかもしれないし,キリンが首を伸ばそうとしたような何らかの強い意志を強く持った提案を評価するかもしれません.判断基準そのものが実に多様です.

小林  ビジネスにおいては,今のライフスタイルに応えることやサービスの付加を基準に判断するので,それが「変化」か「進化」か分からずに進めることも多いと思います.応募者の皆さんには,進化に対する自分なりのロジックをきちんと組み立てて,自信を持って投げかけてほしいですね.そうすれば,ユニークな提案がたくさん出てくるのではないでしょうか.それでは,今回のテーマは「進化する賃貸住宅」ということにしましょう.

一同 賛成です.

 

──最後に,応募者へ向けてメッセージをお願い致します.

小泉  ここ100年の住宅や建築の歴史を見てみれば,さまざまに変化してきました.その「変化」は,社会状況によるものもあれば,物理的に建物の性能を上げようとするための変化もありました.しかし,それらが「進化」と呼べるような未来に向かうものだったのかどうか,それを考え直してみる必要があるのかもしれません.とはいえ「進化」とは自然に淘汰されたかたちでしか,最終的には認識できません.そのため応募される方もどういう進化のかたちが本当の「進化」に繋がるのか,簡単には言えないでしょう.もちろん私たちにも分かりません.だからこそ,新鮮な提案を期待したいと思います.

五十嵐  今回は「進化する賃貸住宅」というテーマに決まりました.これまで,「新しい」などの言葉で建築を考えたことはありましたが,あまり建築の中で「進化」という言葉を聞いたことがないですし,私自身初めてなので,そういった初めての言葉から生まれてくる,本当に「進化」と呼ぶに相応しい多様なアイデアを期待しています.

鍋島  「進化する」とは,その時に単に新しくなるということではなく,時間の経過と共に「化ける」ことで,自然に発展あるいは新しくなっていると気づくことなのかもしれません.時の流れの中で,何をもって進化とするのか,皆さんからの多様な「進化する賃貸住宅」の提案に期待しています.

小林  新しい時代には新しい賃貸住宅が必要だと常々思っていますが,実は,「新しい賃貸住宅」が新しい時代をつくるとも言えるのではないかと思います.今回のテーマでは,新しい時代を切り開く進化する賃貸住宅を期待しています.今まで見たことも聞いたこともないような,「進化」の提案をしていただけたら嬉しいです.たくさんの応募をお待ちしています.

(2016年6月20日,大東建託本社にて 文責:本誌編集部)

 

テーマ座談会の模様