2次審査結果発表

内藤廣(建築家/東京大学教授)

 

応募総数といいその内容といい,充実した内容のコンペだった.結果的にもよい案を選べたのではないかと思っている.三井住空間デザイン賞の太田案は,落ち着いた雰囲気の中にも奥行のある空間をつくり出しており,今までにない集合住宅の空間の出現を期待させるに十分な提案だった.

若い世代の応募者に対して,この場を借りて少し年寄りめいた苦言を呈したい.これは一般論でもある.激戦の1次選考を抜け出した案は,どれも秀逸なものだった.2次は公開プレゼンテーション,審査する側としても期待する所が大きかった.とくに,実務的な経験の少ない若い世代が,ハンディを克服してどのようなプレゼをするかに注目していた.

ところが,いざ始まってみると,いかにも渋谷を歩いているようなラフな身なりでプレゼをする人が多かった.実際につくるのではなく,学生を対象としたアイデアだけのコンペならそれも許されよう.しかし,このコンペの最優秀案は,実際につくり,それを販売するということが決まっている.そこにはきわめてシビアな現実社会が待っている.それゆえ,事業者でありクライアントでもある三井不動産も審査に加わっているのだ.その状況を冷静に判断すれば,この風体は礼を失している,といわれても仕方がない.建築家はいつからそんなにエラクなったのか.それとも,建築家の習俗は特権的な立場を得ている,とでも勘違いしているのだろうか.若者文化はこういうものだ,といいたいのかもしれないが,これはそれを許す世の中に甘えているとしかいいようがない.

いずれプロとして世の中に立っていくつもりがあるのであれば,公の場ではそれなりの身の処し方があることを心すべきだ.ピカソや北斎がそうであったように,天才なら許そう.しかし,天才はそうたやすくは現れまい.

光井純(建築家/ペリ クラーク ペリ アーキテクツ ジャパン代表)

公開審査により審査員としての意見を公開の場で述べる機会を得たことは,かなりの緊張感を伴うことではあったが,審査される側と審査する側の両方にとって審査の基準を明確にし,本コンペの求めるものを明快にする上で非常に有意義なことであったと思う.

三井住空間デザイン賞の太田案は与えられた住宅の平面形状を,実に素直に生かしながら明快な空間デザインを行なっている.その上で空間同士に流動性と重なりをもたせ,広がりのある使いやすい空間を生み出している.空間が端正で静かである分,実施に当たって床壁天井の素材感,色彩のバランスにしっかりした緊張感をもたせ,味わいのある空間につくり上げていくことがこれからの課題である.

優秀案はどちらも力強く思い切った提案となっている.中西案は壁の重なりをうまく使って限られた空間にさまざまの重なりを生み出そうとしている.キッチン入りという禁じ手を採用するためにはキッチンを空間のテーマとして積極的に表現することが必要であったことが惜しまれる.西澤・乾案は平面を3枚おろしで使っている.奥行の深い,いわゆるうなぎの寝床になりやすい形状なので,直交方向の空間の連携が重要となる.ダイニングと寝室を暗色の中間領域によって接続しているが,両側の空間とのかかわりをもう少し積極的に捉えて展開すればさらに説得力を増したと思われる.佳作案にも上位案に引けを取らない優れたアイデアが見られる.百田・大西案は若々しい大胆さと明快な空間の提案を感じることができる.木下・増岡案はコア空間とそれを取り巻く空間とのかかわりがもっと積極的に展開されていれば十分に上位を狙えたと思われる.及川案はキッチン入りの新しい可能性を示しているが,全体的に技におぼれた感がある.ライフスタイルの本質的な部分をもっと追求すれば新しい可能性を開けたのではないか.

このコンペは主催者が新しい才能を発見し,将来のデザインパートナーを探そうとするものであり,現実を見据えた斬新なアイデアが要求される難しいコンペであるにも関わらず応募総数が770を超えたことは驚きであった.

渡辺真理(建築家/法政大学教授)

豊かさとは何か

このコンペは最優秀案が実現されることが前提になっている.今年も多数の応募者があったことは審査に関与したものとしては嬉しいかぎりだが,応募者のうちどれだけが「実現される」ことに真摯に関心をもっていたかとなるとはなはだ心許ない.

分譲マンションの1ユニットをどのように設計できるかというのは単純なインテリアデザインのようでいて,そんなに簡単な問題ではない.そのためには,現状のマンションの住戸平面のどこが,なぜ,問題なのかをあぶりだす必要があるだろう.設計者にそういった批評的な態度が欠落していると,問題解決は往々にして単なる表層的なデザインの問題へとすり替えられてしまうことになる.次に,今回の課題となっているマンションのロケーションについての理解も必要となるはずで,東京都心部の虎ノ門に位置する28階に自分なら何を提案するかという戦略なくしては,「参加することに意義がある」だけの結果になってしまうだろう.このふたつの観点をもち,かつデザイン的にも優れた提案を探すのは至難の業だった.とくに,虎ノ門という敷地を意識した「豊かさ」が応募案にどう表現されているかには期待していたのだが,ほとんどの案がそこを素通りしていたのは残念だった.ここでいう豊かさとはいうまでもなく,高価な素材を用いた,ゴージャスな空間づくりということではない.都心部に居住する人間の生活を住まいがどのようにサポートしたらよいかということなのだが,建築家に求められるのはそういったリアルな想像力ではないだろうか.

鈴木健
(三井不動産レジデンシャル常務執行役員開発事業本部長)

第4回三井住空間デザインコンペが盛況なうちに無事終了したことを,あらためて御礼申しあげます.

私共はこの三井住空間デザインコンペを,デザイナーとマンションを購入されるお客様とを結ぶ架け橋となるよう,デベロッパーとしての立場から協力をさせていただいております.

われわれデベロッパーはややもすると商業主義に陥り、売らんがための視点でプランニングを進めてしまう傾向があります.また,デザイナーは人が住むための住宅を「造る」ということより,自らの作品を「創る」というデザイン主義に陥ってしまうこともあります.この両者のベクトルをお客様の視点に修正し,お客様の視点に立ったものづくりを考える,という観点から,本コンペはデザイナーとデベロッパーにとって大変よい機会になっていると自負しております.

今回,弊社が建設中の(仮称)愛宕・虎ノ門タワー計画がスケジュール的に丁度よいタイミングで本コンペに題材として提供することができました.このマンションの28階に最優秀作となった太田さんのプランを実際に建築しますが,当然つくることだけが目的ではなく、分譲マンションとして、東京の中心地・虎ノ門に建つタワーマンションとしてお客様に評価される住宅とならなければなりません.今後さらなる検討を進め詳細部分の詰めを行い,このプランが高い評価を得られるようデベロッパーとして力を注いでいきたいと思います.

このデザインコンペを継続することが,日本の住宅空間デザインの更なる向上に資することを期待し講評の言葉とさせていただきます.