審査講評
山本 | この論文コンペの審査をして、文章で建築を表現することの難しさを改めて感じました。 多くの応募論文が現状を読み取ることに力点があって、それがそのまま論文のテーマになっている。確かに現状を認識することは重要だけど、論文コンペなんだから、それだけではなくて未来を切り開こうとする意志のようなものが必要なんだと思います。図面であれ、あるいは文章による表現であれ、何らかの強いメッセージが求められるはずです。それを期待していました。単に今の時代にのみ通じる正論を述べるだけで終わってしまっては、使い勝手のいい建築をつくってそれで終わってしまうような、物足りなさがあります。 論文が評価されるチャンスが本当に今は少ないですから。あまり訓練されていない。もう少しこういうコンペがあった方がいいと思いました。今はインターネットからさまざまなデータを手に入れることができるため、背景や数値などは豊富に書かれていましたが、それがどうして生まれたものなのかというオリジナリティのある読み取りもあまり見受けられませんでした。 言葉には力があるはずですよね。言葉によって世界をつくり変えることだってできる。歴史は言葉で書かれているのだから、そこをもっと考えてもらえたらと思います。 |
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藤森 | とんでもないのがひとつもなかったのが残念です。学術論文や白書みたいなものが多くて、こんなに言葉の能力が落ちているとは思いませんでした。 |
山本 | それもインターネットの影響かもしれませんね。言葉をやり取りする場ではあっても、匿名性も高く、発言に責任を取らなくていい。どのように工夫すれば自分の言葉が他人に伝わるのかという関心が薄れているのかもしれません。 |
藤森 | こういう問題やこんなことが起こっていますという状況論だけがある感じでした。何かを主張するようなことが恥ずかしいのかな。 |
千葉 | 僕の研究室の学生が建築家の文章を分析していて、最近わざわざ曖昧な言葉づかいで解説する論調が圧倒的に増えているというのです。そういうことにも通じることなのかもしれません。 |
西村 | 前回までの、図面や提案をビジュアルで表現できるアイデアコンペであれば、さまざまな解釈ができたのですが、論文コンペの場合、提案があるかないかがはっきり分かってしまう。前段部分で状況分析があって興味をもたされるけれど、最終的には自らの提案ができているものが少ないことが明快に分かりました。 |
千葉 | そうですね。論文だとそのことがはっきり出ますね。今回の応募案は、アイデアコンペの時以上に方向性が似ている感じがしました。図面や模型で表現できるアイデアコンペの方が、はるかにテーマが多岐にわたっていた。もちろんアイデアコンペだと、こちらが勝手に解釈を膨らませているということもあると思いますが、言葉という表現はごまかしようがなく、また勝手な深読みもできない。文章って正直ですね。 |
山本 | 今回優秀賞に選んだ4点も、テーマに関して答えられているのか、論文としての力があるかといった点でまだ不十分に感じられました。そのため、最優秀賞は選出しませんでした。しかし優秀賞の論文は、テーマ設定や読み取り、主張に独自の視点があると思います。是非皆さんに読んでいただけたらと思います。 設計という表現と同時に、言葉についても考えていただきたい。審査員一同そんな思いをもっています。 |