優秀賞


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後藤崇夫 (慶應義塾大学大学院)

国家・都市・コンビニ
~コンビニという名の地域あるいは共同体~

「名もなき郊外住宅地」これはまさに20世紀末,ゲニウスロキ大量殺戮の時代が生んだ象徴と言えるであろう.今回の敷地がそうであるように,郊外の匿名性ゆえにその場所がどこであるか分からずとも,風景あるいはその場所の日常までもが容易に想像がついてしまう.もうそこには地域や町内などという共同体は存在せず,個で完結した生活が溢れているのが現状だ.
しかしながら,そのような生活を送りながらも私たちはある特殊な場において「無意識的な関係性」をつくり出しており,それらは地域や町内に代わる新しい共同体を形成しつつある.それが「コンビニ」である.約500mおきにある店舗はその近隣住居によっておのずと来客は固定され,それぞれ会話はなくとも「知っている」という感覚が無意識のうちに生まれる.この「無意識的な関係性」こそが21世紀のコミュニティの初期値であり,コンビニを住宅化することでそれらを昇華させる.

審査委員コメント

この作品は公共性の拡張という可能性を秘めたおもしろいアイデアだと思う.公共料金の支払いもできるし,いまやコンビニは公共性の中心である.残念なのは,コンビニと住宅が寄り添った関係にあることを建築の問題として消化されていないということである.コンビニを徹底的に地域社会の中心に据えた時に,はたしてどのような地域社会になるのか.コンビニと生活の,従来とは異なる密着の仕方があるのか,それが知りたいと思った.

(山本理顕)

コンビニの可能性に取り組んだところがおもしろいが,このままではおもしろさ以上のリアリティが乏しく,もっと自分の身体性とをからめて細部を詰めるとよかった.神も身体性も細部に宿る.

(藤森照信)

集合住宅にコンビニが内包された建築の提案である.コンビニが生活の細部にまで浸透している状況は,すでに当たり前のものとなっている.その状況を逆手にとって,新しい住宅のあり方を模索しようとした,野心的な提案である.この住宅とコンビニを強引に結び付けることで,実は住宅は,かなりの変質を強いられるはずである.その建築的なレベルでの提案についてはまだまだ物足りないが,社会的な事象と住宅とを結び付けようとしたスタンスは,高く評価してよい.

(千葉学)