主催:株式会社長谷工コーポレーション  後援:株式会社 新建築社

 

審査委員長 乾久美子

kuma

1次審査通過の4作品はふたつの方向に分けられると思います.「暮らしの転写,歴史の投影」と「けはいの森」は長い時間をかけて積み重ねていくもので,提案にある図やパースもあくまでも途中段階のものです。「軒下の群景」と「弧に住まう」は完成された状態が提案されています.「弧に住まう」は現代版の集落のようでよくできた案ですが,敷地に収まりきっていません。面積が2倍ぐらいあれば成立していたのかもしれません.「けはいの森」は遠景で見た時のあらわれを意識的に表明していたのが他にはないユニークな点でした.都市景観としての緑を考える際に森そのものを建築でつくろうとする試みがよかったのかはわかりません.一方で「暮らしの転写,歴史の投影」は近景でどう見えるかという話ですが,人の営みの積み重ねが都市景観のあらわれだという考えは面白く,都市の中で集合住宅ができることのひとつだと思います.最近の傾向として,構成というよりは建設にアクセスしている提案が多いように感じています.今年もそうした新しい傾向の案を選ぶことができました.建設そのものを変え、また建築の新しい可能性を示唆していると思いました.佳作では障害のある人々を対象とした「マチの概日時計」は今回のテーマだからこそ出てきたものだと思います.

 

審査委員 藤本壮介

inui

あらわれという視点で考えた時に,どのように建築を問い直すことができるのかという,非常に面白いテーマでした.「暮らしの転写,歴史の投影」と「けはいの森」はかなり過激な提案を,さも当然だという顔で堂々とプレゼンしてくれたことも含めてよかったと思います.特に「暮らしの転写,歴史の投影」は外壁にあらわれている時間性と,それが変わっていくという別の時間性があり,さらに現在住んでいる人と町にいる人との関係やその記憶など複数のレイヤーがあり,いろいろなあらわれがそこに考えられる,あるいはあらわれる点が力強く感じました.「弧に住まう」は,軽やかに道,街,建物というものを再発明しているところがあり,まったく違う魅力が放たれています.今まで僕らが見たことのない建物の建ち方であり,道なのか広場なのか公園なのか,これまであった言葉では定義しきれない新しいあらわれを,ダイレクトに思考しようとしていることが形から見えてきます.「軒下の群景」も実は1次審査の時は非常に魅力的だと思っていたのですが,2次審査では,軒下や路地そのものが持つ魅力が引き立っているように見えなかったことが,少しもったいなかったです.佳作の中では「イロイロイロリハウス」,「キャンバスで映す表情」が気になりました.

 

審査委員 増田信吾

fujimoto

全体的にあらわれという言葉がにぎわいと解釈され,踏み込む前ににぎわいで乗り切る提案が多かったと思いました.「暮らしの転写,歴史の投影」はノスタルジックな案かと思いきや,プレゼンを聞くとかなりアクロバティックな提案をしています.「けはいの森」も技術的可能性を感じるかどうかが重要で,3Dペンで立体的に落書きしたような密度のある模型が魅力的でしたが,示していた技術的観点がフィクショナルに感じてしまいました.既存の近代都市は建物のヴォリュームがメインでつくられているにもかかわらず,余った隙間が街の魅力であったりします.建物と余った敷地という概念にならないよう,「弧に住まう」は,こちら側とあちら側を等価に扱う壁で街をつくるべきと捉え直す可能性を示していて,壁の形状や素材などを具体的にスタディしたくなりました.集合住宅はいくつもつくられるという若干ネガティブな現実を念頭に置いてみると,「暮らしの転写,歴史の投影」と「弧に住まう」は隙間をベースに構築した提案で,数が増えると街の軽さや空気の流れを変えていきそうで希望を感じます.精神性がどこか日本的で,日本の集合住宅がこれからの街をどう変えていけるのか,示唆的で挑戦的な提示になっていたと思います.

 

 

審査委員 堀井規男

ikegami

今回のテーマでは,住戸の中から外,敷地の中から外へと,街を変えていくようなインパクトを期待していたのですが,敷地の外周程度に止まっており,やや表層的な案が多かったと思いました.一方で提案の方向性がかなり幅広く,2次審査では活発な議論が起こりました.「軒下の群景」は,テーマとしてはありがちな中で他の案に比べてどう優れているか,もうひと押しがほしかったです.残りの3作品の中で完成度が高いと思うのは「弧に住まう」です.壁に住むという発想と,円弧の内外が多様な空間をつくっている点が,システムとしてよくできていると思いました.さらに実際に模型を見て,街から引き入れるインパクトや,街に発信していく提案も含んでいることがわかりました.「暮らしの転写,歴史の投影」は,壁に残された記憶があらわれてくるという考え方は面白いと思うのですが,スクラップアンドビルトにならない提案になっているとよりよいと思いました.SNSの発展によってリアルでの交流が減少している中で,建築やまちづくりでも,外に溢れ出すあるいは中に引き込むようなものが求められる時代になってきています.われわれもマンションづくりを通して,内向きになりつつある社会を変えるような取り組みを進めていきたいと思います.

 

ゲスト審査委員 アサダワタル

ikegami

あらわれを考えた時に,暮らしている人の人物像が見えたり,その仕組みによって新しい慣習や交流が生まれたり,あらわして終わりではないその先の視点が重要だと思いました.その上で,素材や配置などのデザインは後からついてくるのではないでしょうか.「弧に住まう」は集落のように見えるという議論がありましたが,貝塚のように中央に人が集まることのできる中心性を持った空間が入ると,住民だけではないあらわれがひとつ増えると思いました.「けはいの森」は,都市に緑があらわれることを意識されていますが,緑化を意識した集合住宅をはるか超えたインパクトがありました.「暮らしの転写,歴史の投影」は,外から見た時にミュージアムのようで,博物館やアーカイブのような要素を持っています.そうした眼差しを周りの人が手に入れることができることも,非常に面白いあらわれだと思いました.また,「軒下の群景」や「弧に住まう」は内外の交流を生む仕組みをつくり,その生活の感覚をあらわれとしているのですが,「暮らしの転写,歴史の投影」には人を集めたり交流を促すような要素はあまりありません.しかし,外壁という形のあるものから確かに人びとの生活が外に漏れている構成は他とは一線を画しており,魅力的だと思いました.