主催:株式会社長谷工コーポレーション  後援:株式会社 新建築社

 

審査委員長 隈研吾

kuma

今回の課題「狩猟採集の集合住宅」は形にするのが難しい課題だったと思いますが,入賞された作品は,模型を含めたプレゼンテーションの完成度がどれも高かったです.審査委員からの質疑に対して言葉が詰まる場面も見られましたが,アプローチの射程が広く解釈に差が出る課題の中で,面白いと思わせる題材を掬い上げる直感力を感じました.最優秀賞に選ばれた「暮らしの結び目をほどく環境帯」は,設備や収納などとして機能する環境帯の提案であるのと同時に,環境帯以外の場所が暮らしの多様性を受けとめるフリースペースの提案でもありました.住まい手が暮らし方を選択できるというのは,多様性が求められるこれからの時代においてリアリティのある提案です.学生の皆さんが今後も建築と関わっていくのであれば,社会の潮流を感じ取る直感力は重要です.激しく変化するこれからの社会の中で,自分の持つ感性をどのように位置付けていくのか.それを実現するための技術や経験は自ずと身についてきます.これからも自分の直感を信じて,育んでいってほしい.

 

審査委員 乾久美子

inui

テーマ会議で隈さんから狩猟採集と提案された時,拠点や物を探し取って生活の中に取り込んでいく自主的な動きが,これからのライフスタイルにマッチしているのだろうと思い賛同しました.ですが,それに対しての山極さんの「現代が遊動の時代」というコメント(本誌2108)を読んで,私が考える以上に意味を持った課題なのだと考えを改めました.今回の課題は,かつての狩猟採集の時代に見られる分配や平等といった社会性の根底に迫る,とても大きなものでした.今日のそれぞれのプレゼンテーションを聞いていても,社会そのものを,これまでとはまったく異なる視点で捉えようとするきっかけとなる言葉がいくつも挙がりました.最優秀賞となった「暮らしの結び目をほどく環境帯」の「環境帯」もそのひとつです.難しい課題だったと思いますが,私たちを取り巻く現代社会のあり方を根本的に疑い,新しい関係性を提案するものが上位に選ばれました.審査をする中で,私の持つ考えや価値観が古いのではないかといと反省する瞬間もあり,とてもよい刺激を受けました.

 

審査委員 藤本壮介

fujimoto

2次審査に進んだ4案は,プレゼンテーションを聞きみんなで議論をして,各案の面白さの正体が見えてきた上で, 審査委員によって評価が割れるほどレベルの高いものでした.この公開審査で改善点が見えてきた作品もありましたが,佳作の作品も含め,課題に対しての出発点がどれも魅力的でした.たとえば「渡る親子は育場借」では,高齢者の暮らし方が一緒に提案されているとリアリティが出てより面白くなるのではないか,という指摘から議論が盛り上がりました.それは提案自体の魅力に刺激された結果です.実務の世界でもそうですが,ある課題に対して正解がひとつだけとは思い込まず,こうして議論することで生まれるさまざまな発想も加えて,夢を重ねていくようにすると,時代に即した柔軟な提案ができると思います.プレゼンテーションでは自分の考えと熱をぶつけて終わりではなく,審査員側から質問がきた時は,それをきっかけに発想を広げられるチャンスだと捉えてください.公開審査の価値はそこにあります.みなさんの建築人生はこの先も続いていくと思いますが,新しい感性とリアリティと誠実さを持って頑張ってください.

 

審査委員 布施谷成司

ikegami

今回で長谷工住まいのデザインコンペティションも15回目を迎えました.実務者としてさまざまなプロジェクトに向かい合う日々ですが,激動の時代に突入したと実感しています.今後どういった住まいづくりを目指していけばよいのかと考えながら審査していましたが,学生の皆さんが抱く現代社会への視座は,私たちが感じている課題と近く参考になりました.空き家やゴミなどの社会問題と向き合う作品も見られる中,応募作品で多かったのは,特定の場に縛られない暮らし方です.テレワークといった実際に起きている身近なテーマを取り上げていたり,街の施設を住宅の一部ととらえる提案や,SNSと関連付けたフレキシブルな住居の提案など多彩なアプローチがありました.場に囚われない考え方は,これからの集合住宅にとって必要なものだと思います.社会を構築してきたこれまでの仕組みを解体し,新たな価値観を持っていかに再構築するのか.どの案もよく考えられており,感心させられるものが多くありました.受賞された皆様,おめでとうございます.

 

ゲスト審査委員 山極壽一

ikegami

今回の課題は未来を予言していると思いました.新型コロナウイルスの蔓延によって,人びとの移動が止まってしまっていました.今後,抑制あるいは共存できるようになっても,人びとはこれまでとは違う動きをするでしょう.シェアやコモンズといった考えが拡大し,人や物が共有されていく時代です.たとえばワーケーションは,仕事と趣味を一緒に,かつ拠点を一カ所に留めることなく実現できますが,複数に拠点があれば各拠点に物を置く必要性が低くなります.情報通信技術や配送システムが発展し,また必要な物がどこにいても低コストで手に入る時代ですから,所有することで賄っていたこれまでの社会システムは変わっていくでしょう.働き方も変化し,複数の会社に所属することが可能になるかもしれません.これまでの単数・単線型の人生に対して,複数の住居,複数の職業というように,みんなで共有しながら選択できる暮らしです.課題も多くありますが,逆に課題に直面しているとも言えます.今回のコンペを通して,応募者の皆さんはそうした未来を見据えながら課題と向き合っているのだと思いました.その感性を大事にしていってほしいです.