主催:株式会社長谷工コーポレーション  後援:株式会社 新建築社

 

審査委員長 隈研吾

kuma

今年は,「集まって生きるかたち」をテーマにして,「住む」ではなく,あえて「生きる」を問いました.新型コロナウイルス感染症で大変な時期にもかかわらず,その思いに応えるよい案がたくさん集まりました.その中で,2次審査の争点は,提案に未来が感じられるかどうかという点になりました.「火を囲むくらし」や「POROUS MULTI-STORY NAGAYA」は,ノスタルジックなものを介して人を繋ぎ直そうというコンセプトが魅力的である一方,それが実現する未来はあまり感じられませんでした.「家族のように暮らす 他人のように生きる」は,個別のものを分解するという点では未来的な考えですが,どこかメタボリストが描いたかつての未来と同じように感じました.それに対し,最優秀賞の「ポケット×暮らし—コミュニティを収納するかたち」は,情報技術が浸透した生活における居住部と外部のインターフェースに焦点を当て,それさえつくれば共用部や住居部など生活する部分はつくり込まなくても,人が集まる場所を生み出せるという考え方が未来的で説得力がありました.佳作の「“おと”の中にいきるすまい」は,音を手掛かりにして建築のかたちや人のコミュニケーションをつくり出そうとする点が面白かった.「水廻りのビオトープ」は,生物にとって必要不可欠な水をテーマに,環境的な中水利用にまで広げた提案で可能性を感じました.

 

審査委員 乾久美子

inui

新型コロナウイルス感染症で,不自由な生活が続く学生たちの素直な思いが提案に表れているようで,興味深く審査をしました.最優秀賞の「ポケット×暮らし—コミュニティを収納するかたち」は,ビジネスマインドを持って集合住宅をどのように運営するかまで考えを広げていて感心しました.みんなで運営して暮らそうという意気込みに,集まることの意味を感じました.また昨今,資源を搾取して成り立たせる生活の危うさが指摘されることが多いですが,物々交換を基本とするこの提案には,未来の社会のあり方も見えて可能性を感じました.「POROUS MULTI-STORY NAGAYA」は,日々の暮らしでコミュニティ意識を醸成させるという当たり前のテーマに正面から向き合っており,その実直さが評価に値すると思いました.「火を囲むくらし」は,火が持っている問題点も含めて,人びとは火を取り戻すべきなのではないかという気持ちに共感しました.ただ,居住者を限定してしまったこと,火を守る仕組みまで踏み込めていなかったことなど,まだアイデアが発展途上である点もあり,惜しかったと思います.佳作の「動く,生きる」は,空間そのものを居住者全員が考え,さらにシェアするという提案に,今後の可能性を感じました.「くるまのくるまち」は,移動販売車によって変わる集合住宅のかたちを示していたと思います.

 

審査委員 藤本壮介

fujimoto

今回は力作が多かった一方で,今の状況を大胆に変えようとする提案は意外に少なく,身の回りの状況を丁寧に見つめ直して,人や街の関係を考え直そうとする物が多かったと思います.優秀賞の「火を囲むくらし」は魅力的な提案でしたが,似通った場所が連続していたり,建物に入り込んでいる中庭があまりつくり込まれていなかった点が惜しかったです.「家族のように暮らす 他人のように生きる」は,個人のBox同士を単にネットワークとして繋げるのではなく,滲み合ったり反発し合ったりするような曖昧な関係としてつくれていれば,さらに面白い提案になったと思います.最優秀賞の「ポケット×暮らし—コミュニティを収納するかたち」は,共用部と住居部が同じくらいの大きさになっており,空間のつくり方と運営方法を連動させて考えているため,リアリティのある提案になっていました.今回のアイデアだからこそ考えられる場所のかたちや,道路と建物の境界のかたちがさらに掘り下げられると面白くなったと思います.佳作の「Farmily」は,上階に広がる農場に絡みつくように人びとが生活しており,街の体験や風景を変える可能性を感じました.「例えば小さな大地で」は,オープンスペースとその下の居住部の関係が断面図パースで綺麗に表現されていました.

 

審査委員 池上一夫

ikegami

受賞作品は,それぞれ異なる方向性を持っており,楽しく審査ができました.優秀賞の「火を囲むくらし」は,斬新な提案でしたが,4つの住居部分にそれぞれ特徴を持たせていたらさらに面白い提案になったと思います.同じく優秀賞の「POROUS MULTI-STORY NAGAYA」は,リアリティのある提案で小庭が魅力的でしたが,そこへのアプローチが単純なのが惜しいと思いました.「家族のように暮らす 他人のように生きる」は,個人のBoxを繋ぐ共用廊下にもっと着目して,能動的につくられているとさらに魅力が増したと思います.最優秀賞の「ポケット×暮らし—コミュニティを収納するかたち」は,建物のハードとソフトが同時にデザインされており,未来の集合住宅をリアリティを持ってイメージすることができました.これからの集合住宅は,居住者が集まって生活するだけではなく,周辺の人びとを積極的に呼び込むなどして,街をつくるように暮らしていく場所になるのかもしれません.「urban forest」は,1階に森のようなピロティをつくり,寄り道したくなる集合住宅をつくっており,「拡張するベランダ生活 境界を包むテーブル」は,新しいベランダの考え方に挑戦するなど,新たなコミュニティの醸成を図っており共感しました.受賞された皆様,おめでとうございます.

 

ゲスト審査委員 山極壽一

ikegami

私は霊長類学を専門にしていますが,集まって生きるのは人類の核心だと思っています.今回,集まるために何が必要か,集まって何を するのか,集まって何が変わるのかというように,集まることの原点に迫る提案を多く見ることができ,とても刺激的でした.その中で優 秀賞の「火を囲むくらし」は,火を利用して人びとが築いてきた心温まる暮らしや集まりを,現代生活が無視してきたことに対して疑問を 投げかけている点に共感しました.しかし,環境問題など火が抱える課題もあります.例えば,現代の科学技術を取り込むなどして,環 境に配慮した建物を提案していればさらによかったのではないでしょうか.最優秀賞の「ポケット×暮らし—̶コミュニティを収納するかたち」は,人と人を物で繋ぐという発想ですが,ビジネスのような視点ではなく,自分が使った物を使ってくれる他人がいるという視点に魅力を感じ,未来における社会のあり方が,かたちになって提示されていたと思いました.佳作の「呼吸する植物体̶—空間へ導く『木の子』」は, きのこの性質を利用することで自由度の高い住宅を実現していたと思います.「強調あるいは協調するアニマル」は,さまざまな幾何 学形態を組み合わせて変化をつけることで,歩くことや住むことによって人びとに刺激を与えるような住宅がつくり出されていました.