審査講評

隈研吾

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くま・けんご/1954年東京都生まれ/1979年東京大学建築学科大学院修了/1985 ~86年コロンビア大学建築・都市計画学科客員研究員,ASIANCULTURAL COUNCIL給費研究員/1987年空間研究所設立/1990年隈研吾建築都市設計事務所設立/1998年慶應義塾大学環境情報学部環境情報学科特別招聘教授/2001年~同大学理工学部教授

アイデアコンペの審査をしていると,主催者側の意図と応募案の内容が伴わないこともままあるのだが,今回のコンペは集合住宅という難しいテーマにも関わらず,全体のレベルは高いものだった.
集合住宅の設計には,一見矛盾するふたつの大きな課題がある.それは,集合するということと家であるということをどう表現するかである.今回のコンペは,全体の傾向として「家でありたい」「戸建て住宅でありたい」という願望が強いように感じられた.家が持つ独特の繊細さやかわいらしさといったものを300戸の中に保ちたいという気持ちが,どの案にもありありと出ていた.それは日本の若い人たちに顕著な傾向だと思う.普通にこの課題を解こうとすると,スラブを重ねて家を並べるという案になる.実際そういう案は多かったが,上位には残らなかった.家的なものを残した案は佳作の横山・中辻案(四畳半×300)である.この案は,四畳半にすれば平屋でも300戸が敷地に入ることを教えてくれた.また,集合住宅を設計していると,プランニングの問題ばかりを解こうとなりがちだが,実は表層があり,その表層に人間の個別性が表れるかもしれない.そのことをHernan・浅見案(都市の表情に住まう)は改めて教えてくれた.結果としては個別性と集合性の両方の問題をバランスよく解いたものが上位3案になったが,審査員をもっと驚かせる案があってもよかったと思う.

乾久美子

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いぬい・くみこ/1969年大阪府生まれ/1992年東京藝術大学美術学部建築学科卒業/1996年イエール大学大学院建築学部修了/1996 ~2000年青木淳建築計画事務所/2000年乾久美子建築設計事務所設立/2000 ~01年東京藝術大学美術学部建築科常勤助手/2006年~昭和女子大学非常勤講師

このコンペは他にあまり例のないものだと感じた.なぜなら,ある程度の設計の密度が必要とされる集合住宅というプログラムが要求されたために,きちんとした設計コンペの側面を持ちつつも,アイデアコンペ的な側面も併せ持っていたからだ.そのためか,他のコンペではあまり見られない密度の高いアイデアが出てきたという印象だった.そうした作品群の中では,抽象的なイメージを持ちつつ,同時に,具体的な問題を解いている案がとても魅力的に見えた.中でも最優秀賞の高池・湯浅案(300人のランドスケープ)は特に鮮やかなものであった.300人という人間の多さを1.5kmという長さに置き換えて抽象化しながら,人が行動する時にその長さをどう感じるかという肉体的な問題へと具象化しており,これらのふたつの傾向が同時に提案可能であることを示していた.優秀賞の岡崎・上杉案(森を回遊する極細集合住宅)は,意図的に敷地を広げて,あえて集合住宅の密度を低くしているのだが,今後の集合住宅の傾向を示唆していると思う.同じく優秀賞の中村・田原案(300人が集まる大きな部屋)は,柱のように林立した集合住宅で全体の大きなボックスを支えるという構成が面白かった.また佳作の伊藤・祢冝・川端案(300人のための集合住宅)も興味深く見させてもらった.造形としては堅いのだが面白い風景になっていると感じた

藤本壮介

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ふじもと・そうすけ/1971年北海道生まれ/1994年東京大学工学部建築学科卒業/2000年藤本壮介建築設計事務所設立/現在,京都大学,東京理科大学,昭和女子大学非常勤講師

今回のコンペでは,よい意味で新しい都市の風景,住み方の風景を夢見させてもらった.住むというリアルなことと都市の大きなビジョンが両立している案に共感した.最優秀賞の高池・湯浅案(300人のランドスケープ)は1.5kmという都市的な長さを巻き上げた大胆な案である.スロープの縁側のような部分があまりに均質なのが気になったが,それを含めても力量がある.岡崎・上杉案(森を回遊する極細集合住宅)は緑の中に分け入っていく都市の新たな風景をつくり出している.もっと立体的に,公園の中を通過する動線も兼ねたネットワークになっているとよかった.大きな囲いの中が,内部のような雰囲気も漂わせつつ外部のようにも見える中村・田原案(300人が集まる大きな部屋)は非常に秀逸だと思ったが,同時にそれが,ただ狭い現代の価値観の中で,疑問を持たないまま成熟したようにも見えて不安でもあった.角野・市川案(猿的密度論)は体験してみたい.密集することで生まれる床スラブの重なりに着目した新しい集合の仕方だと思うし,身体的に楽しそうである.サボテンのような谷脇案(ほそながく,まとまった家)は,ふやけたようにものが密集する仕方とユーモラスな形がよかった.

大栗育夫

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おおぐり・いくお/1950年栃木県生まれ/1974年東京理科大学工学部建築学科卒業,長谷川工務店入社/現在,長谷工コーポレーション代表取締役専務執行役員 技術管掌

当社は昨年に創業70周年を迎えました.その間,45万戸の集合住宅を主に設計・施工にて建設し供給してきました.こうして,私ども長谷工コーポレーションは,集合住宅を世の中に広く普及(一般化)してまいりました.
今回は創業70周年の記念も含めまして当社の社会貢献活動のひとつとして,高校生から大学院生まで学生のみを対象としたデザインコンペティションを開催しました.若手の人材育成の一助になればと考えています.
テーマである集合住宅は,今後も都市の要素としては重要な役割を担っていくであろうと考えていますが,計画する側には多くの課題があることも事実です.住空間としてどうあるべきか,都市の景観として,都市の環境に対してどうあるべきか,あるいは「品質」「性能」「機能」「安全性」と,考えるとたくさんあります.また作品でありながら事業性という側面からの視点も当然必要となってきます.
こういった課題に対して,若い人たちが「どういう発想で」「どういった回答を出してくるのか」がとても楽しみでした.
コンぺの結果については,登録総数783点,応募数348点と数多くの学生のみなさんが関心を持ってくれました.厳正なる審査の結果,合計10作品を選ばせていただきました.全体的にハイレべルな内容であったと思います.「集まって住む楽しさ」を享受できる新しい発想の提案が多く見受けられました.主催者として審査委員として,非常に有意義なコンぺでした.

最新情報

2008年2月1日
審査講評を追加しました.
2007年12月21日
2007年11月9日
応募登録の受け付けを終了しました.
2007年8月23日
応募登録受け付けを開始しました.
学生対象