第8回大東建託賃貸住宅コンペ

座談会

虎ノ門・神谷町にある「.BASE」のコワーキングスペースでの対談風景。
虎ノ門・神谷町にある「.BASE」のコワーキングスペースでの対談風景。

潜在的な願望を引き出し、新たなライフスタイルを創造する

連勇太朗(NPO法人モクチン企画代表理事、株式会社@カマタ共同代表)
小林克満 (大東建託株式会社 代表取締役社長)

進行:中村光恵(コーディネート、リトルメディア代表)

──「大東建託 賃貸住宅コンペ」は第8回を迎えました.第6回からは空間のデザインだけでなく賃貸の仕組みについても提案を募り,興味深い案が多数寄せられました.賃貸の仕組みや暮らしの問題の解決を求めたコンペとして浸透しつつありますが,次回に向けてどのようなことを考えなければならないのか,第7回のゲスト審査委員を務めていただいた連勇太朗さんを迎えて大東建託の小林克満さんと対談していただきます.
まずは,今年社長に就任され,「生活総合支援企業」をテーマにさまざまな生活支援の展開を目指している大東建託の展望について小林さんにお伺いします.

左が連さん、右が小林さん。「.BASE」エントランスホールにて。2点とも©新建築社
左が連さん、右が小林さん。「.BASE」エントランスホールにて。2点とも©新建築社

小林  「生活総合支援企業」とは,主力である賃貸住宅事業を核としつつ,多くの人が集まり住まう場所を提供する立場として何ができるのか,賃貸住宅という場所をつくることでその周辺に必要となる生活支援とはどのようなものなのかを考えるためのキーワードで,コミュニティの形成,災害時の拠点づくり,高齢化への対応といった社会的な役割を担うことを意味します.実はこの考えは,豊島区を舞台として第6回目のコンペを開催した時,豊島区のみなさんとさまざまな意見を交わしたことがひとつのきっかけとなったもので,賃貸住宅と社会を繋ぐ視点の必要性を感じたからです.この対談場所である 「.BASE(ドットベース)虎ノ門」もその取り組みの一環です.近年はさまざまなシェアオフィスが街に溢れていますが,スタートアップを目指す会社の支援を賃貸住宅業とどう絡め,新しいものを生み出すことに繋げていけるのか,その仕組みはまだ試行錯誤中ですが,テストケースとしてまずは拠点をつくりました.このように賃貸住宅コンペから,私たちの新たな活動,新たな価値の創造が生まれています.

「.BASE」のコワーキングスペース。
「.BASE」のコワーキングスペース。

「身近な」という言葉をあらためて考えてみる

──連さんに参加していただいた第7回では 「身近な社会問題と向き合う,新たな賃貸住宅とは」 をテーマにコンペを募集しました.第7回を審査されたご感想をお聞かせください.

  簡単なようで高度なテーマ設定だったと思います.このコンペでは社会問題と賃貸住宅というふたつの軸があり,両方とも曖昧なまま捉えると,たとえば社会問題では 「高齢化」 や 「空き家」 ,賃貸住宅では多機能化するとか,シェアスペースをつくるとか,型にはまった提案しか出てきません.だからこそ 「身近な」という言葉が大事だったと思うんです.「身近な」という言葉が入ることで自分の生活に引き寄せた独自性のある視点を持つことができます.

小林 環境保全や社会貢献など,社会問題と向き合うことが企業にも求められる時代になりました.第7回のテーマで 「身近な」という言葉を使ったのは,既存の企業では対応していない,対応できない,こぼれ落ちている領域があるのではないかと思ったからで,そこを拾い上げてもらうことで賃貸住宅の領域を広げることになるのではないかと期待していました.

「.BASE」のサービスオフィス。2点とも © Sohei Oya (Nacasa & Partners)
「.BASE」のサービスオフィス。2点とも © Sohei Oya (Nacasa & Partners)

  「身近な」ということを考えるには,新しいライフスタイルの提案が必要だと思うのですが,自分本位の考えでは行政が提案しそうな,問題解決を主眼に置きすぎたウィッシュリストになってしまいます.「こういう賃貸住宅やこういう街だったら住みたい!」と他者に思ってもらえるものになっているのか,客観的に見なければいけません.問題を考える際の発想の仕方が大事です.たとえば,「1カ月のうち1泊ぐらいならおばあちゃんと一緒に過ごしたい.そこで癒されるしご飯も食べられる.そんな選択肢があったらいいな」そういう素朴な感覚が実は社会問題へのアプローチの第一歩になる.そしたら 「おばあちゃんの美味しいご飯を食べたい若者たちがいるかもしれない,そして若者たちから元気をもらえるおばあちゃんがいる.でも彼らは出会っていない」ということが分かる.それが 「課題」や 「問題」の種な訳です.

小林 なるほど,面白いですね.

  たとえばスタートアップのビジネスのつくり方は,ユーザーインサイトと言って,ユーザー自身も意識していない願望を発見することができるかが鍵になります.ユーザーが潜在的に思っていることだから,ヒアリングしただけでは,その願望は分かりません.しかも100人いたら100人思っていることではなくて,2,3人の人が強く思っていることだったりします.それをちゃんと捕まえられるかどうかが,スタートアップ系企業のビジネスモデルの構築で重要だと言われています.

さまざまな目線から問いを立てる

──連さんは身近な社会問題と向き合い,実際に 「モクチン企画」 や 「@カマタ」 という活動を通して建築をつくり,場所の風景を新たに生み出し,住む人たちの意識や生活を変えています.これらの活動はどういった思いで展開されているのでしょうか.

  「モクチン企画」を始めた2009年頃は,リノベーション自体もあまり認知されていなくて,木造アパートは古臭く人気がありませんでした.そこで住み手側の目線で考えてみようと思ったのです.マーケットに出ているアパートはどれも住みたいとは思わないけれど,たとえば床を整えるだけで一気に雰囲気が変わっていい感じになったりします.そういうちょっとした感覚を大切にしました.それから不動産会社の目線.改修時の費用をリサーチすると,家賃5万円の部屋に200〜300万円かけているのがわかりました.それでは採算が合わないのは当たり前.費用をかけない選択は原状回復しかない.だったら原状回復+αでできるオプションがたくさん増えたらよいのではないかと.それによって入居者の希望と改修費用の接点をつくることができます.ひとり暮らしする場所を探す時,居室やキッチンが無機質な空間,インターネットの検索でそんな場所ばかり見て切ない気持ちになりました.本来,もっと賃貸住宅は愛されてもいいのにというモチベーション.これが僕にとっての身近な社会問題だったわけです.「@カマタ」も自分たちが拠点にしている東京都大田区蒲田の,町工場や商店街などが雑然としているところが面白く,そこをさらに魅力的にしたいという思いからです.何気ないアクションが仲間を呼び,それが街の風景を変えていく喜びがあります.

モクチン企画で改修された木造アパートメントの一室。 © kentahasegawa
モクチン企画で改修された木造アパートメントの一室。 © kentahasegawa

小林 大東建託で管理させていただいている賃貸住宅は全国に109万戸あります.連さんが話された意識を持ってオーナーさんたちと向き合えたら,大きな動きがつくれるのではないかなと思いました.地域の中で賃貸住宅をどうポジショニングしていくのか,私たちの意識の問題ですね.

  私はこれから,賃料0円の時代がくるのではないかという仮説を持っています.戦略的にそうする会社も出てくるでしょう.伏線としてあるのは,自動運転の車をつくっているアメリカのスタートアップ企業の取り組みです.面白いのは,車を売るのではなくタクシー業,しかも無料であることです.乗車した人のパーソナルな属性をITで感知して最適な広告を出す.移動を自由にする代わりに広告費を取ることで成立させる仕組みです.そう考えると賃貸住宅に住んでいる人の生活情報を違うビジネスや収益に繋げ,賃料を0円にすることもあり得る気がします.賃料0円の賃貸住宅ってどのようになるのか,という問いからのアプローチもあるように思います.テクノロジーの発展により,これからはタクシーや賃貸住宅だけでなく,ハードへの対価が下がる状況は十分にあり得るでしょう.社会問題を設定する時に,そういう問いの立て方も当然できるでしょう.

小林 問いの立て方も,賃貸住宅を個で考えるのか群や量で考えるのかで,まったく違った発想になりますね.たとえば自動車業界が進めているカーシェアを考えた時,大東建託が管理させていただいている109万戸の賃貸住宅の駐車場自体も変わる可能性があります.カーシェアでさらに自動運転になれば住宅の形態も変わり,駐車場だった土地の活用も変わってきます.

  管理戸数の規模があるからこそできるサービスもあるでしょうね.全国に大量に点在していることの可能性は追求するべきだと思います.

@カマタ、高架下につくられた町工場などが入るシェアオフィススペース「コーカ」。© 山内紀人
@カマタ、高架下につくられた町工場などが入るシェアオフィススペース「コーカ」。© 山内紀人

建築の限定性と建築の力

──最後に,第8回に応募する人たちへのメッセージをお願いします.

  今,社会問題の解決を個や家族という単位に頼りすぎている気がします.個人の意思決定は自分の中で完結させ,介護や教育は家族の中でやりましょうみたいな.あまりにも個人主義化しすぎている.これは辛いです.昔はもう少し中間的なコミュニティの選択肢があって,神社やお寺のような宗教施設,企業も少なからずそういった役割をしてきました.でも,時代の流れと共にその中間的な枠組みがかなり弱体化している.地域社会が空洞化していく状況をみなさんに考えてほしいです.いろいろなレベルで多層的でないと社会のセーフティネットは成立しないと思います.

小林 高齢化社会を考えた時,逆にそういう場所で高齢者が働く選択肢もありますよね.高齢者のボランティアは昔よりはるかに増えています.昔はボランティアではなく近所の世話焼きみたいな人がいたけれど,そういうことを繋ぐ場所のあり方ですね.

  ひとつひとつの取り組みやさまざまな活動の機微をすくい上げ,社会の中にちゃんとした位置付けを与えていくことが大切です.さまざまな意見があると思いますが,建築だけで解決できる問題は限定的だと僕は思います.結局サービスやライフスタイルが空間の可能性を簡単に飛び超えてしまう時代だからです.そういう時代だということを前提に 「さまざまな生活」とは何なのかを問う.建築で何ができるかという問いの立て方は必要な一方で,そこからの発想だけだと型にはまったことしかできない.建築の限定性に自覚的になったうえで,でも建築の力を信じられるかということだと思います.構想力を持って挑んで欲しいです.

小林 賃貸住宅単体で考えると,どうしても発想の幅が狭くなります.仕組みを考え,全国にある賃貸住宅の量やネットワークといった枠組みを意識すれば,社会問題を解決する視点もまた変わってくるのではないでしょうか.連さんの身近な問題からの発想,それをやりたいという思いと社会問題が合致するというお話,その発想はすごく健全で,しかも新鮮です.今回も改めてみなさんに身近な問題を拾い上げていただき,仕組みと魅力ある建築の空間づくりによって新しい賃貸住宅のあり方を提案していただきたいです.
(2019年7月19日,.BASE虎ノ門にて,文責:本誌編集部)

座談会協力

連勇太朗
1987年神奈川県生まれ。
2012年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、2015年同大学大学院後期博士課程単位取得退学。2012年にNPO法人モクチン企画を設立、代表理事に就任。2018年に株式会社@カマタを設立、共同代表に就任。

第8回大東建託賃貸住宅コンペ