主催:大東建託株式会社  後援:株式会社新建築社  コーディネート:リトルメディア

最新情報

2020年3月30日
2次審査結果発表(一般部門、学生部門)、結果発表(新たな賃貸スタイル部門)、審査講評ページを公開しました。
2020年1月30日
1次審査結果発表ページを公開しました。
2020年1月10日
応募登録の受け付けを終了しました。
「第8回大東建託賃貸住宅コンペ 公開審査会観覧募集/建築ツアーのお知らせ」ページを公開しました。
2019年8月27日
ホームページをオープンしました。
応募登録の受け付けを開始しました。
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過去のコンペ

 

審査講評

千葉学(審査委員長)

今回は学生部門により面白い提案が多く見られました.自分が暮らす地域の課題や家族の生業を,身近な体験から普遍的なテーマに結び付けるアプローチは,建築家の思考として不可欠です.「製本街の本づくりの堂」(三田案)は,拠点となる「本づくりの堂」をいわゆる「中心施設」としてつくる姿勢には疑問が残りましたが,製本業を新しいかたちで支えていく街のあり方として実現してほしい提案です.「まちの肝臓 呼吸する蔵」(外山・小室案)は,インフラが当たり前のサービスとなってしまって,エネルギー供給の仕組みや経路が意識されていない現代において,改めてそれを小さなスケールで目に見えるかたちにすることに価値を感じました.
一般部門の「Re:Mall」(池田・嶽山・曽根案)は,ショッピングモールの再生をテーマにしたものです.問題提起は興味深いのですが,過剰な共用部はそもそも必要か,また事業として成り立つのか,居住環境は快適なのかなど疑問は多く残りました.ショッピングモールの空間だからこそできるアクティビティや住み方がもっとあるように思います.
新たな賃貸スタイル部門の2作品は,どちらも素晴らしい計画です.関わっているさまざまな人の発想やスキル,またどんな場所にしたいかという思いが建築や場所づくりに結実しています.「賃貸民泊 OBI HOUSE」は,離れの仕組みが秀逸です.貸し方としても空間としても,さらにはそこに起こり得る活動も含めてマネージメントしていることが,あの賑わいを支えています.「Dragon Court Village」は,中庭を挟んでひとつの居住単位を発見したことが見事です.単調で退屈な空間が突如として魅力ある空間として浮かび上がる,建築的な知恵の賜物です.

赤松佳珠子

「製本街の本づくりの堂」(三田案)は,場所設定と工場を生かしたあり方は面白いですが,印刷や製本の街の従来のネットワークをうまく生かすアイデアがあれば,よりよい提案になったと思います.「まちの肝臓 呼吸する蔵」(外山・小室案)は,インフラとしての蔵の機能と周辺の関係の展開が見えづらかったですが,システムへの着眼は面白かったです.「庁舎賃貸」(佐藤・大森案)は,新築ではなく,リノベーションの提案であるべきではないかと.敷地の選定も再考の余地があります.
「Re:Mall」(池田・嶽山・曽根案)は,廃れていくショッピングモールに着目し,そこに新たな人びとの活動を提案できていた点は面白いですが,プレハブではなくもう少しよい居住空間を提案できたのではないでしょうか.「街の駅」(日野・鈴木案)は,街にあれだけ大掛かりな建物をつくり,あらゆるものが運ばれてくる状況をつくると,街に出なくても生活ができてしまいます.それは本当に魅力的でしょうか.

横川正紀

このコンペで面白いのは,デザインだけでなく,ソフトの仕組み,事業性のバランスが重要視されていることです.その上で,「製本街の本づくりの堂」(三田案)には,純粋なリアリティがありました.本の街が好きな人たちはたくさんいて,そこには活版印刷などを含めた「紙」というジャンルに集まりたいコミュニティもあります.ローコストかつ街に開いたデザインの試みが面白いです.「まちの肝臓 呼吸する蔵」(外山・小室案)は,街にある蔵同士を繋いだ提案としてほしかった.ソフト面では面白いところを捉えていたと思いますが,事業性を考えると,「製本街の本づくりの堂」(三田案)のほうがバランスが取れた提案になっていました.「Re:Mall」(池田・嶽山・曽根案)は,モールの中をキックバイクや自転車で移動する様が想像できました.「Life with Animal」(菊澤案)は,飼育放棄されたペットの保護といった社会問題も一緒に解決できたら,リアリティがもてる案です.

木下斉

審査をしていて,どの提案も「賃貸住宅」の「住戸」ではなく「共有部」にばかり目が向き,住居部分は単なる極小住宅の提案ばかりでその点が大変残念に思いました.近年のトレンドとはいえ、建物として地域に開くことに目線が行き過ぎて,新しい賃貸住宅の提案なのに,個別の住居内がチープでは多くの方に受け入れられるとは思いません.みなさんは住居に対して潤いを求めていないのでしょうか.地域に開くことが常に議論される昨今ではありますが、小さな個の空間とパブリックスペースという「シェア」によるあり方を無条件に良いものと考えず,本当にそこに住む方々にとってどのレベルでの開放性と閉鎖性が適切なのか、もう少し個別条件にあった中庸を求める提案があってもよいと思います.自分や周りのいう価値観を今一度疑いながら,他業界の人たちに話を聞いてみるとか,もう少し多様な価値観の獲得を目指してほしいです.最近では,本がある空間そのもの自体が商売のテコになってきています.入館料のある書店が成立していたり,著者を招くイベントなどを開催している小さな書店が,大規模な書店より利益を上げているケースもあります.「製本街の本づくりの堂」(三田案)は,そのようなニーズに応えていて,興味を持ってそこに住まおうとする居住者像が見えてくる提案でした.


小林克満

今回は,町工場やショッピングモールなど,これからの活用に課題のあるものをどう生かしていくかを考えている提案が光っていました.学生部門では,身近なところから発想したことで,提案に愛着が現れているように感じました.ただ自由な発想が見られた一方で,事業に対するシミュレーションがあまりされていなかったように思います.その中では,「製本街の本づくりの堂」(三田案)は,マーケットをきちんと見据えた上で,本を中心として具体的に誰が住むかを想定できていました.「庁舎賃貸」(佐藤・大森案)は,新築にしてヴォイドを挿入する必要性の説得力に欠けましたが,提案の趣旨としてはリアリティがあったと思います.敷地は川崎市高津区ではなく,古い庁舎の処遇に実際に困っている地方に目を向けたほうがよかったのではないでしょうか.「まちの肝臓 呼吸する蔵」(外山・小室案)は,蔵をインフラとして活用する点でユニークですが,ひとつの蔵が賄えるエネルギーをざっくりでよいので試算して考えてほしかったです.建築空間,ソフト,事業性という提案の中の3つの要素のうち,一般部門はソフトが弱かったように思います.着眼した問題を,挿入するソフトと空間と合わせて事業性を創出していく.難しい課題ですが,改めて問いたいと思います.

峠坂滋彦

今回のテーマの「さまざまな生活を支える新たな賃貸住宅」に対して,「まちの肝臓 呼吸する蔵」(外山・小室案)は,居住者が生活を支えるインフラとして蔵を機能させるために従事するという住まい方は,今までにない想像を掻き立てる提案になっていました.「製本街の本づくりの堂」(三田案)は,身近な社会問題を賃貸住宅で解決するという良い提案だと思います.「庁舎賃貸」(佐藤・大森案)は,実際にシェアオフィスなどの既存の施設が街に溢れる中で,庁舎を対象としたメリットをもっと打ち出せればより良い提案になったと思います.このコンペは賃貸住宅のコンペです.賃貸住宅として成立するにはソフトと事業収支が重要です.どのような新たな仕組みがこれからの賃貸住宅をつくっていくのか,みなさんの提案からわれわれも考えていきたいです.