主催:大東建託株式会社  後援:株式会社新建築社

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テーマ座談会

※テーマ座談会の模様は動画でも配信しています。この欄の下をご覧ください。

 

賃貸住宅の公(おおやけ)

小泉雅生×五十嵐淳×鍋島千恵×小林克満

「賃貸」を主題にしたコンペの第4回を開催するに先立ち,審査委員の方々に,これまで開催された第1回コンペ(テーマ:「風景をつくる賃貸住宅 都市郊外の街並みを変える新しいかたち」2012年),第2回コンペ(テーマ:「新たな『賃貸住宅』を考える 賃貸で住まう集合住宅を刷新せよ!」2013年),第3回コンペ(テーマ:「40年後の未来の賃貸住宅」2014年)を振り返っていただき,その後,今回の課題テーマについて,話し合っていただきました.(編)

 

第1回〜第3回コンペを振り返って

──過去3回のコンペを振り返り,今回のコンペではどのような方向性が考えられるか皆さんと話していきたいと思います.

小林  今年で4回目となる賃貸住宅コンペですが,過去3回を開催する中で私たちにもさまざまな気付きがありました.今一度コンペの価値をしっかり認識しながら,継続していきたいです.発想の幅を狭めずに,さらに新しい賃貸住宅を考えていけるようなテーマがよいですね.

小泉  これまでは,風景や時間という比較的大きな枠のテーマを構えてきました.今回は具体的なテーマにしてみるのはどうでしょうか.たとえば,「玄関をふたつ持つ賃貸住宅」や,500~1,000世帯を包含する「超L型賃貸住宅」などです.最終的には,これまでと同様に,景観やコミュニティの問題へ考えがおよぶでしょうが,入口を具体的にすることで今までとは違った角度から光が当たると思います.

小林  私は2040年問題における賃貸住宅の展望をテーマに挙げられないかと考えています.社会問題やコミュニティに関する問題は,オーナー様からの関心も高く,大東建託としても明確なビジョンが必要になっています.これから賃貸住宅を含めて,住宅自体が機能や性能を超え,どのように社会性を持つべきか,そこがひとつのテーマになり得ると思います.現代社会には少子高齢化のみならず,さまざまな問題があります.現在,大東建託では「女子ゴコロ100%」というプロジェクトで,女性の皆さんといろいろなアイデアを募っています.商品開発のテーマとして,働く女性やシングルマザーにとって必要な機能や快適性をかたちにしていければと考えています.インターネットの普及に伴って,たとえその対象が少数派でも真に求める人がいれば,エリアを越えて探し求めることが可能になったと,以前,小泉さんがおっしゃっていました.賃貸住宅は主にマスを対象としてきましたが,これからはコアなターゲットに応えられる賃貸住宅があってもよいと思います.社会問題を身近に捉えて,自身がいちばん解決したい問題に着目し,発想してもらうこともできます.

五十嵐  小林さんと小泉さんの意見を合わせるのがよさそうです.社会問題やコミュニティはそれ単体では解決できるものではないので,小泉さんのおっしゃる「超L型」のような具体的なスケール感は大事だと思います.たとえば風景や街をよくすることを目的にすると,住宅単体で働きかけるのはなかなか難しい.そうした時にたとえば,1,000世帯の賃貸住宅があれば,その中のコミュニティから派生していろいろなことができる気がするので,分けて考える必要はないと思います.

鍋島  私も小泉さんの具体案に,小林さんの大枠のテーマを重ね合わせるのは賛成です.社会問題やコミュニティは「私」と「公」の考え方に繋がりますし,「公共的」や「公」をテーマのキーワードに入れると,両案の意図に合致しそうです.同時に「時間軸」についても考えてほしいです.提案の背景となる「過去」や,その提案が実現した後どう変化するか,「間」の部分にまで言及できるとよいと思います.今,個人的にも「公共性」のあり方に注目していて,特に戸建て住宅の公共性について考えています.たとえば,戸建て住宅がたくさん集まっている場所を,少し引いて見ると,それも集合住宅のように見えてくる.そこには道や庭や縁側があり,おそらくそういった場所でのコミュニティや,都市の形成のされ方みたいなものも存在しますよね.

小泉  今の若い人たちには「公共性」という言葉はどのように受け止められると思いますか?

鍋島  おそらく多種多様に受け止められていると思います.ですので,「公共性」を広く捉えられるよう,テーマ自体を概念的にしたいですね.たとえば「編む」や「絡まる」「織り込む」のようなさまざまな解釈ができる言葉を入れると,多様な提案が出てくるのではないでしょうか.

五十嵐  「社会性」や「公共性」は基本的に何を指し示しているのかが分かりづらいです.鍋島さんの言うとおり,人によって解釈も大きく変わってくるように思います.

小泉  以前,山本理顕さんが『権力の空間/空間の権力 個人と国家の〈あいだ〉を設計せよ』(講談社,2015年)の中で,ハンナ・アーレントの公共性に関わる論考について,古代ギリシャの住空間から読み解かれていました.住宅の中においても「公」のふるまいに応じた空間があるということでした.一般生活の中での公共性をどう空間に翻訳するかという視点は日本でもこれから議論されるべきですし,面白い提案が出るように思います.

小林  最近読んだコミュニティデザイナーの山崎亮さんの本(『コミュニティデザインの時代 自分たちで「まち」をつくる』中央公論新社,2012年)の中で,昔,道は住民がつくっていたが,いつの間にか行政がつくるようになり,現在では行政しかつくれなくなってしまったとありました.さらに,今は「公=行政」の構図ができていますが,今後行政が負担できることが減るので,住民ももっと「公」に対する意識を持ち,自ら関わっていくことが必要だと書かれていました.たとえば500~1,000世帯という単位で賃貸住宅を考えれば,あるまとまった規模の人びとに対して「公」への意識を変えていく仕掛けを働きかけることができると思います.

小泉  私が『パブリック空間の本—公共性をもった空間の今までとこれから』(彰国社,2013年)を執筆した時に「公共性」の定義について,政治思想史の専門家の言葉を援用したのですが,「公共性」として,①「国家に関係する公的」(オフィシャル),②「すべての人に関係する共通」(コモン),③「誰に対しても開かれている」(オープン)の3つが挙げられていました.興味深いのは,基本的にこれら3つが必ずしも常に揃っているとは限らないということです.むしろ,3つのどれかに当てはまれば「公共性」と言えます.たとえば,みんなに共通して提供するために,サービスエリアを限定しなくてはならないとか,そういった制限があるものも含めて「公共性」と言えるのです.その矛盾は建築にも言えることで,たとえば,市営住宅は入居するために収入制限があったりして,そもそも本当の意味で公平ではありません.コモンやオープンなどを両立した住宅のあり方を考えてみるのも面白いかもしれません.

 

──これまでを振り返ると「賃貸住宅」に対するアプローチが少ないことが少し気になりました.言葉を概念的にすることで建築自体の可能性は広がるかもしれませんが,逆に言うと「賃貸住宅」の仕組みや考え方を捉えづらくはならないでしょうか.

小林  まとまった数を供給できるという賃貸住宅が持つボリューム感は特徴的だと思います.賃貸と分譲では供給の仕方が異なるので,規模の概念を入れることで「賃貸住宅」へのアプローチになると思います.

小泉  賃貸と分譲の違いでいうと,賃貸では所有主体がオーナーひとりなので,住宅や街を変えようと思えば,オーナーの思いひとつでできます.分譲団地では多数の意志がまとまらない限り,何かを変えようにもまったく進まないことがあります.これは大きな差で,長い時間軸で考えると,賃貸の方が状況に応じた変化を受け容れやすく,サステナブルと言えるかもしれません.単に住戸プランだけで公共的な空間を供出するのではなく,住宅を永続させるという観点での公共性も考えられると思います.テーマを「賃貸住宅の公(おおやけ)」として,空間的な公共性と時間軸での公共性の両方を考えてもらうのがよいのではないでしょうか.

一同  賛成です.

 

──みなさんの作品やすでにある事例で,「公」のスペースとして具体的によい場所はありますか?

小泉  たとえば「戸田市立芦原小学校」(『新建築』0505)では,敷地内に通り抜けができる屋外の通路があり,その一部には屋根がかかっています.ある日,乳母車を押したお母さんから,雨の日にちょっとした雨宿りができて助かったと感謝されたと聞きました.そのエピソードを聞いて,とても嬉しかったですね.

小林  小学校は「公」にもかかわらず,今では一般人が立ち入れません.賃貸住宅はそもそも入居者個々人の私有地ではないので,オーナーの意志である程度公共性を持った空間をつくりやすいと思います.簡単なベンチを置くだけで,空間はできるかもしれません.

五十嵐  私の作品ではないですが,以前,ノーマン・フォスターが設計した「香港上海銀行」(1986年)を見に行った時に,お昼になると吹抜けに周辺の住宅で働くメイドさんが集まり,みんなでごはんを食べたりお茶を飲んでいる光景を目にして,世界の人びとの「公」と,日本の「公」には大きな違いがあるように感じました.日本でも「金沢21世紀美術館」(『新建築』0411)や「せんだいメディアテーク」(『新建築』0103)などには自然と人が集まっています.一般的な公共建築では,危険性などを考慮した制度が壁になることがありますが,これらの建築では,心地よさといった純粋な感覚を大切にして設計されています.私はそういった建築の力で勝負してほしいです.

小泉  行政によってつくられる公共空間に足りないものは民が自らつくり出すしかありません.これから賃貸住宅に期待されるのは,行政が提供し得ない民間ならではの公共性でしょう.これまで賃貸住宅は消費されるものでしたが,今後はストックされるべきということも見据えて,そのための「公」について考えていただきたいです.

 

──最後に,応募者へのメッセージをお願いします.

小泉  「賃貸住宅の公」というと,一見相反する言葉のように見えますが,現在のいわゆる「公共」がつくる公共空間に限界があるように思えてなりません.賃貸住宅という私的な空間でしかつくれない公共性や,そこで期待される「公」もあると思います.空間としての公共性もあれば,長い時間をかけてみんなでつくったり,管理するという時間軸での「公」もありますので,それらを踏まえて大胆な提案をしていただきたいです.

五十嵐  社会性や公共性については普段からの関心事ではありますが,これらの言葉は対象物,つまり主体とそれ以外のものの概念によって,大きく振れ幅のある言葉だと思います.住宅を設計する時も概念が異なる建主が多種多様にいて,一概に住宅だからこうするといったことは考えにくいものです.「賃貸住宅の公」というテーマに対して,自分自身でつくり上げた物語だけに収束せずに,少し大げさですが,全人類に対して通用するような,見たこともない「建築」としての提案を見せてくれることを期待しています.

鍋島  「公」の場には,さまざまな枠組みや,何にでも捉えられる考え方など,ひとつに限定されない可能性が秘められていると思います.今回のコンペでは,それらを包含できるような提案を期待しています.その中で,何か新しい気付きのある提案が見られるとよいですね.

小林  今年,大東建託は2040年問題など社会問題の解決をテーマにした取り組みを始めました.賃貸住宅はかねてより,公共性や社会性を合わせ持った住宅だと考えています.オーナー様と入居者様,そしてわれわれのような建築管理者の3者がひとつの賃貸住宅をつくる中で,新しい賃貸住宅の価値を生み出す提案を期待しています.

(2015年6月22日,大東建託本社にて 文責:新建築編集部)

 

テーマ座談会の模様