主催:大東建託株式会社  後援:株式会社新建築社

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テーマ座談会

※テーマ座談会の模様は動画でも配信しています。この欄の下をご覧ください。

 

新たな「賃貸住宅」を考える──賃貸で住まう集合住宅を刷新せよ!

小泉雅生×五十嵐淳×鍋島千恵×小林克満

「賃貸」を主題にしたコンペの第2回を開催するに先立ち,はじめに大東建託の小林克満氏より昨年「風景をつくる賃貸住宅──都市郊外の街並みを変える新しいかたち」をテーマに開催された第1回コンペを振り返っていただき,その後,今回の課題のテーマについて,審査委員の方々に話し合っていただきました.(編)


第1回コンペを振り返って

——第1回のコンペを振り返り,今回のコンペはどのような方向性が考えられるのか,皆さんとお話していきたいと思います.

小林  第1回目のコンペは,広く賃貸住宅の存在意義を世の中に問うことができたと共に,多様なアイデアが寄せられ非常に大きな刺激を受けることができました.私たちもはじめての試みでしたので,賃貸住宅にできる可能性を「風景をつくる賃貸住宅」というテーマで投げかけさせていただきましたが,「集合住宅」としての建築の魅力の中に,「賃貸住宅」であることの視点は,なかなか表現しづらいものであることを感じました.
それゆえ,アイデアベースとはいえ,私たちが日々の設計にフィードバックできるような,リアリティが感じられなかったことも少し残念です.
賃貸住宅は自らのライフスタイルやライフステージに合わせて気軽に住み替えていけるメリットがあります.今までは賃貸住宅というと,単身者や若い夫婦が住まう場所としてのニーズでしたが,世の中の変化に伴い,幅広い世代の単身者,高齢者に対応したり,家族の変化に伴った最適なかたちが求められたりと賃貸住宅へのニーズも変化しています.大東建託は,ここ10〜15年で賃貸住宅の着工シェアの15〜20%を占めており,地域によっては新築の着工戸数の30〜50%を供給しているところもあります.ある程度の規模をもち,その場所に長い間存在する賃貸住宅が街に対して担う責任は大きく,私たちも建築の力やデザインがもつ意味について会社をあげて考えているところです.第2回のコンペでは,改めて賃貸住宅に特化したテーマを掲げ,「賃貸住宅にできること」を真正面から考える機会にできればと思います.

小泉  小林さんがおっしゃったように,第1回のコンペでは,「賃貸住宅」であることの可能性をどのように考えたらいいのか,応募作品からは見えづらかったように思います.「集合住宅」と「賃貸住宅」との違いは一体何なのか,突き詰めて考えてみるのは面白いと思います.


「賃貸住宅」にできること

——では,今回改めて,「賃貸」であることをどのように問いかけていきましょうか.

小泉  賃貸住宅の可能性はさまざまにあると思いますが,条件をフリーにしすぎると焦点が見えづらくなるので,ある程度方向性を絞った方がリアリティにつながる気がします.住まい手の属性や世帯人数,あるいは住まい方,敷地など,……絞り方はいろいろあると思いますがどうですか?

五十嵐  僕は敷地を設定するのが有効だと思います.昨年は条件が「都市郊外」でしたが,実は郊外ではないような案もたくさんありましたよね.真面目に郊外の風景に取り組んでいるものもあれば,集まって住むコミュニティをつくることに重点を置いていたもの,リノベーションで風景の更新を考えることに注力していたものなど,作品によってフォーカスポイントが異なっていたので,審査をする時に比較しづらい部分がありました.ある場所を設定するのは,ひとつの明快な審査基準になるのではないでしょうか.

鍋島  私は応募者が各自設定した敷地で,それぞれの場所がもつ問題について考えることが多種多様な提案を生むので,あまり固有の敷地を決めなくてもよいかなと思いました.それぞれの土地の場所性を賃貸住宅とうまくつなげた提案も見てみたい気がします.実は私は,第1回の提案が「賃貸住宅」を掘り下げられていなかったとはあまり思っていないんです.「賃貸住宅」とひとくちに言ってもマンションタイプの大規模なものから二世帯くらいの規模のものまで幅広くありますし,固定概念にしばられずに考えられたらと思います.

小林  前回は郊外がテーマでしたが,今実際にシェアが増えているのは,東京都内も含め,都市にある既存の駐車場や古いアパートや戸建てを建て替えての賃貸活用です.既存の風景の中に新しい賃貸住宅を提供していく際に,その建物の存在や価値をどういう風に考えるかは大事な視点です.私たちも普段「賃貸住宅」と「集合住宅」を特に明確に定義付けている訳ではないので,鍋島さんが言うように両者の解が変わらないということが分かればそれはそれでひとつの価値になり得るでしょう.ただ,応募者それぞれが考える「賃貸であること」の定義をもったうえで提案していただきたいのです.

小泉  昨年の審査では,何かを共有して集合するという案がとても多かったのが気になりました.今回はそれに限らず,賃貸がもつ生活の自由さ,可能性をもっと掘り下げてもらえたらと思います.長い人生の中での期間限定の住まいだからこそ,実験的な住まい方に挑戦して生活の場を広げてみようということも考えられるのではないでしょうか.
ちなみに,賃貸住宅には平均して何年くらい住まわれているのですか?

小林  私たち大東建託の調査によると,平均して4〜5年ですね.生活が変わるきっかけ,たとえば転勤や結婚,出産,子育て,子どもの独立などの機会に住み替えるケースが多い他,ライフスタイルに合わせて個人の嗜好で積極的に家を住み替える人びとも都市型の生活者を中心に一定数います.ここ最近では単身者が増えていて,高齢化による単身のシニアだけでなく,晩婚化の流れもあり家族と同居せずにひとり暮らしをする男女が増えています.今までよりワングレード上の住まいを望まれる傾向があるので,そこに新しい市場の可能性を見出しており,たとえば女性のひとり住まいをターゲットにコミュニティが計画された賃貸住宅なども出てきています.

小泉  かつての「住宅すごろく」では,20代は木賃アパート暮らし,結婚して家族ができた後に戸建てを購入して上がり,という流れがありました.ライフスタイルや家族像も多様化している現在では,もっといろいろな上がりがありそうです.たとえば,社会的な余裕が出てきたら,別荘を賃貸で借りるなんていうケースも考えられないでしょうか.自然の中に建つ一戸建てということではなく,都市的な生活を楽しむために都心に別荘的な一部屋を借りるということもあるかもしれません.

小林  30〜40代で家を購入する人が多いのは,その年代のニーズに見合った賃貸がほとんどないからです.供給する上でも収益性も含めて成立させるのが難しいんです.でも逆にこの層に対して魅力的だと思える賃貸住宅を発想できると新しいマーケットになり得ると思っています.現在,私たちが展開している商品の中に,「アジャストマンション」という住居の一部を第三者に貸し出せるタイプの分譲マンションがあります.たとえば2LDKの両端にユニットを組み合わせた間取りになっていて,全体をつなげてひとつの住戸として使用することも,個々を独立した住戸として使うこともできます.使用しない部屋は大東建託が借り上げて入居者を探し,収益を所有者に還元します.家族構成やライフスタイルに応じて住まいのかたちを調節できる新しい賃貸住宅のスタイルです.

小泉  状況に合わせて住宅が伸縮するわけですね.まさにメタボリズムです.今までは住み手側から賃貸住宅について話してきましたが,所有者側の目線から提案を考えてみるのも面白いですね.

小林  それが発展していくと,小泉さんがおっしゃっていたセカンドハウスを借りることにもつながっていくのだと思います.必要性に応じて自由に住宅を借りて暮らしをアレンジしていくようなイメージです.

小泉  スウェーデンでは,多くの人びとが,街の家とバカンスを楽しむ夏の家の2軒をもっているといいます.現在,日本では住戸数の15%,つまり6軒に1軒が空き家です.もうしばらくすると人口減少で4軒に1軒くらい空き家になるかもしれない.そうなると,2軒の住宅をもって,ふたつのモードを楽しむようなライフスタイルも夢じゃないかもしれません.そこに賃貸が介入していくというのも可能性がありそうです.

五十嵐  ターゲットや使い方についてはいろいろ想定できそうなので,そこは応募者に自由に考えてもらって,テーマとしては「新たな賃貸住宅」ぐらい直球でいくのはどうですか.ただそれだとあまりに自由なので,敷地は具体的に決めたいです.

小泉  実在の土地ではなくあくまで架空の土地としておいて,条件をきっちり決めたらどうでしょうか.たとえば,「都市近郊の住宅地で東西方向に長い20×25m,500m2の敷地」として,この範囲の中であれば規模や居住者像は応募者が自由に設定できるようにする.敷地の大きさが決まっていれば,そこにどれだけの人が生活すると想定するかで,それぞれの考える価値観も見えてきそうです.

五十嵐  よいですね.周囲の環境もある程度決めておきませんか.「ベッドタウンの駅から徒歩10分くらいの住宅街で,1km圏内に学校やスーパーマーケットや病院がある」とか.住まい手の属性なども具体的に想定しやすいですし,リアリティをもった案がでてくるのではないでしょうか.

鍋島  その条件を満たせば,実在する土地に当てはめて場所性から案を考えるというアプローチもあり得るということですよね.それなら賛成です.

小林  我々のイメージする敷地にも近いですし,商品化に展開できるような提案がでてくることに期待が持てそうです.

小泉  ではその方向でいきましょう.テーマは,「新たな『賃貸住宅』を考える」とするのはどうですか.賃貸住宅そのものの仕組みや枠組みを改めて問いましょう.

五十嵐  「賃貸住宅を刷新せよ!」くらい強く掲げてもよいと思います.既存の枠組みにとらわれずにまったく違うものを考えてほしいというメッセージを表したいです.

小泉  では,サブタイトルに入れることにして,新たな「賃貸住宅」を考える──賃貸で住まう集合住宅を刷新せよ ! はいかがでしょうか.

一同  賛成です.


賃貸住宅の新しいスタンダード

──最後に,応募者へのメッセージをお願いします.

小泉  賃貸住宅というと仮住まいというイメージがありますが,仮であるがゆえの可能性や豊かさをぜひ考えてほしいと思います.それを実現する仕組みと建築,双方から提案してください.

五十嵐  僕は賃貸住宅でも普通の住宅でも建築として面白くないといけないと思っています.賃貸住宅を刷新するような,もしくは,建築そのものを刷新してしまうようなアイデアが見たいですし,プログラムも含めてまったく新しいものを見せてほしいです.

鍋島  新しい賃貸住宅ということで,既存の住まいの習性や生活の仕方を越えた,これまでにない仕組みや空間が提案されることを期待しています.それが建築的にも新しいものであってほしいです.

小林  大東建託は「賃貸住宅にできることをもっと」というスローガンを掲げており,今年は新たに「お見せできるのは未来です」というキャッチフレーズを加えました.今回のコンペがこれからの未来につながる賃貸住宅の新しいスタンダードを見つける機会になればと思っています.賃貸住宅の可能性をもっと広げていただけたらと思います.

(2013年7月9日,大東建託本社にて 文責:本誌編集部)

 

テーマ座談会の模様