審査講評
|
小泉雅生
第2回目のコンペは,留学生や海外からの応募も含め作品数が500点を超え,昨年に増して充実した審査となりました.今回は敷地を設定したうえで,「新たな『賃貸住宅』を考える」ことをテーマにしました.建築空間のデザイン提案だけでなく,システムや住まい方などソフトの提案まで踏み込んだものが多く,それらを読み込みながらの1次審査は大変時間がかかりました.2次審査では,対象作品は甲乙つけがたく,時にはプレゼンターに厳しい質問が投げかけられることとなりました.最終的には,賃貸住宅が抱える課題を,想像力をかき立てる表現で描き出した「賃貸都市 〜二つの賃貸手法〜」(佐藤・加藤案)が,最優秀賞に決定しましたが,他の受賞作品にも,それぞれに可能性を感じました. |
|
五十嵐淳第1回目のコンペでは作品によって想定がさまざまで審査が難しかったため,今回は比較のための視点を揃えようと敷地を限定しましたが,そのことで提案に想像力がなくなってしまったように思えるのが残念です.以前,内藤廣さんがご自身の講演会で「どんなプログラムでも20年もてばよい方なので,僕はプログラムにとらわれるのではなく,それを超える建築をつくりたい」とおっしゃっていましたが,その考え方にはとても共感しています.結局は賃貸住宅にどんなプログラムを設定するかということより,その提案自体に夢があるかどうかが大事だと思います.その観点では,最優秀賞に選ばれた「賃貸都市 〜二つの賃貸手法〜」(佐藤・加藤案)はスケールが大きく夢があり,プレゼンテーションを聞いていて気持ちよかったです.応募案はどれも課題に対して真摯に応えていましたが,もっと根幹の部分を大切に考えてほしいです.次回のコンペでも想像力を働かせ新たな賃貸住宅を建築がどう生み出せるのかを考えていただきたいです. |
|
鍋島千恵「新たな『賃貸住宅』を考える」というテーマに対して,賃貸の「仕組み」についての魅力的な提案が多く見られました.ただ,その「仕組み」のアイデアを前面に押し出すことで,実空間としての豊かな建築そのものは逆に見えづらくなっているような気がして気になりました.楽しげなインテリアの風景が街に溢れ出すことが賃貸の醍醐味となって,集まって住むことの目的になってしまっているように思えたのです.賃貸住宅を含めた建築にはもっとリアルな人間の営みや空間があるように思います.思いもよらない新しい構造や技術や素材によってつくられる建築と仕組みとが一体になった斬新な空間が,これまで建築の歴史をつくってきたのではないでしょうか.来年もそういった,社会の流れを変えてしまうような挑戦的な案を期待します. |
|
小林克満
第2回目の本コンペに,前回の応募数を上回る多数のご応募をいただきありがとうございました.皆さんの提案から,今の賃貸住宅や賃貸制度の硬直化に対してのさまざまな問題提起を感じました.nLDKに象徴される部屋のあり方や,すでに完成した部屋を借りなければならない既存の仕組みから開放されて,自分で好きなだけ部屋を借りられたり,減築・増築して空間を可変したり,隣の住戸との壁を移動させてその広さを変えたり,とさまざまな提案がありました.また人びとがその場所をシェアし,交流しながら住むという考えが非常に多かったことからも,時代の流れを感じました.審査では,それらの案を建築的にどうかたちに落とし込んでいるのかが最大の論点となりました. |