主催:大東建託株式会社  後援:株式会社新建築社

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テーマ座談会

※テーマ座談会の模様は動画でも配信しています。この欄の下をご覧ください。

 

風景をつくる賃貸住宅──賃貸住宅にできることを、もっと

小泉雅生×五十嵐淳×鍋島千恵×浅野秀樹

「賃貸」を主題にした新しいコンペの開催に先立ち、はじめに大東建託の浅野秀樹氏より大東建託のこれまでの仕事についてお話いただき、その後、今回の課題のテーマについて、審査委員の方々に話し合っていただきました。(編)


価値観が多様化する社会における賃貸住宅

——まずは大東建託という会社の主な事業について教えてください。また、今回のコンペについては、どのような目的をお考えでしょうか。

浅野  私たち大東建託は、土地を所有するお客様の資産継承や資産活用のため、提案から設計、建設、客付け、その後の管理まですべてを一手に引き受ける事業サポートを行っています。2012年7月末までに住居用のアパートマンションを71万592戸管理し、同戸数分の建設を行ってきました。仮に1軒にふたりが住んでいると計算すると、全部で140万人もの人びとがここで生活していることになります。住宅は、喜びや悲しみ、集い、別れ、さまざまなことが起こる人生の舞台です。より良い賃貸住宅をつくることが、結果として人びとの暮らしや街をいきいきとさせることに繋がるのではないでしょうか。そのことを意識し、賃貸住宅にできることをどんどん実践していきたいと考えています。 大東建託の昨年1年間の販売棟数は、ツーバイフォー(2×4)工法や当社独自のネオフレーム工法そして鉄骨造及び鉄筋コンクリート造を含めて10,826棟。主力の2×4は、8,134棟、4万8,800戸で、日本の2×4年間建設戸数9万8,680戸の中での賃貸戸数5万2,661戸の93%を供給している状況です。1974年の会社設立当初、鉄骨造からスタートしたのですが、19年前に短期償却型の商品として2×4工法を開発して以来、効率の良さが評判で、国内でトップのシェアをになっています。現在、カナダで独自に開拓した木材輸入ルートを通じて、年間30万m3ほどの輸入材を使用していますが、近年、日本の森林再生も考え、4年前より国内材を使用する取り組みも始めています。
かつて、私もたくさんのコンペに参加してきました。しかし、「賃貸」という名のついたコンペはこれまでに見たことがありません。大東建託では、これまでの38年間、賃貸一筋でやってきましたので、賃貸住宅に真正面から取り組むコンペにしたいと考えています。その中で今回は、木構造をベースにした提案を是非お願いしたい。今後も継続的に本コンペを開催し、年を経るごとに意味合いが重なるような機会にしていけたらと思います。

小泉  近年、住宅を巡る価値観が変わりつつあるという気がしています。これまで、木造賃貸住宅から始まり、団地を経て、最後に庭付き一戸建てでゴールという「住宅すごろく」という考え方が根強くありました。しかし、価値観が多様化する現在では、不動産の価値は相対化されてきました。住宅を「所有」することをやめ、「利用」することに価値を見出す人も増えています。当然、ハードとしての住宅のあり方も、今までとは変わってくるはずです。そのような時代を背景として、新たな賃貸住宅像が求められていると言えるでしょう。コンペという自由に提案ができる機会に、たくさんの可能性が示され、刺激的な議論ができればと思っています。


賃貸住宅が風景をつくる

——では、今回どのようなテーマが考えられますか。

小泉  一時的な仮住まいというイメージのある賃貸住宅に対して、「利用する」ことに主眼をおいた「スペースを利用する住まい」というテーマはどうでしょうか。これから起こる「所有」から「利用」への価値観シフトにおいて、同時にライフスタイルも変わるでしょう。それに対応してハードも変わることを踏まえ、スペースを利用する住まいとはどのようなものか考えて欲しいというのがひとつめの案です。もうひとつは、今いわゆる団塊世代が退職期を迎え、これから元気な若年高齢者の増加が予想されます。そのような人びとを対象とした住まいというものです。今までの高齢者住宅=バリアフリー、介護といったイメージですが、実際の元気な高齢者は、第二の人生でこれまでの夢を叶え、充実した生活を送りたいと思っています。自動車メーカーが、そういった人びとをターゲットに高級セダンを開発したのに、実際に売れたのはスポーティーな車だったという話を聞いたことがあります。そういった賃貸住宅を考えるのもおもしろいと思います。「元気な高齢者のためのフェアレディZみたいな住まい」というテーマ、つまり、冒険心に満ちた高齢者のためのプチゴージャスな賃貸住宅です。

鍋島  私は「借りて住む新しいかたち」というテーマはどうかと考えています。1回目なので賃貸に特化した方が良いのではないかと思いました。借りて住む場合、多様化するライフスタイルの中で、どんな生活ニーズの変化にも対応ができて楽しめるような賃貸や、例えニーズがなくても変化を許容できるようなあり方を考えてみたいです。どちらにしてもかたちが伴って欲しいと思っています。賃貸の持つイメージそのものを変えるような提案を求めたいです。

五十嵐  浅野さんのお話をうかがって思ったのですが、かなりの棟数が建つということは、賃貸住宅によって風景をつくれる可能性があるということです。建築家は風景をつくることを夢見てもその実現は難しいですが、このような圧倒的な棟数だとそれらが風景を変える起点になり得ると思うんです。ですから、「風景をつくる賃貸住宅」というテーマはいかがでしょうか。現在の賃貸住宅は、風景をつくる存在としてベストかと言うと、必ずしもそうとは思えないところもあります。アイデアコンペですが現実の社会に還元していけるようなものを求めたいですし、そんな提案にこそ、リアルに街を良くしていく可能性があると思います。

浅野  賃貸住宅と言うと、あくまで仮住まいというイメージがあって、なかなか人を呼びたいと思える場所になっていないのが現実です。しかし、運用形態が異なるとしても、街に建ち、人が住まう場であることは何ら変わりはありませんから、賃貸住宅も友達を呼びたくなるような場をつくらなければならないと常々思っています。仕様やデザインの質も決して建て売りに負けないものを目指してきました。その中で、五十嵐さんがおっしゃるように、風景をつくること、街との関わりについては今後もっと考えていきたいですね。

小泉  「風景をつくる賃貸住宅」というテーマはおもしろそうです。賃貸住宅は、人も建物も短いサイクルで更新されることが前提となっていて、住まう人にとって仮住まいであるだけでなく、街に対しても仮住まいなのかもしれません。だから、街づくりに寄与しないものと思われている。しかし、建築が建つ以上は、何らか街に対する責任は果たさなければなりません。だからこそ、風景をつくる賃貸住宅という視点はとても良いテーマだと思います。

鍋島  今までの風景を変えるというのは単体でできることではないので、賃貸住宅があることによって周囲にどんな影響が与えられるのかを考えるのは、このコンペならではの視点で良いと思います。

小泉  では、1回目のテーマは、「風景をつくる賃貸住宅」に決定したいと思います。

浅野  今回こぼれてしまったテーマ案も、例えば小泉さんの元気な高齢者というテーマなど、時代のニーズにも合っていておもしろいと思うので、次回以降に議論できたらと思います。


都市郊外の賃貸住宅

──「風景をつくる賃貸住宅」というテーマに対して、どのような提案を求めたいですか。

五十嵐  僕は、賃貸住宅というニーズを把握するのに、前提としてマーケティングがありますが、それにマッチするような商品をつくるという順序はおかしいと思っているんです。だから、もっと「人が住む」ことに対する普遍的な提案を求めたいです。根源的に良いと思えるものをつくらなければ良くなっていかないと思うのです。

浅野  賃貸住宅は事業性が強いため、緻密なマーケティングや資金確保が必要とされます。その中で新しいものをと言っても限界はあるのですが、逆にシェアが大きい我々だからこそつくれるものもあります。持ち家とは違うけれども人が住んで生活を楽しむという考え方の中で、どこまで新しいものを提案していただけるのか楽しみです。

小泉  風景という言葉の間口を広げて考えてみると、その中に人びとのアクティビティがつくりだす風景も含めることもできるのではないでしょうか。とすると、鍋島さんのアイデアにあった、その中での生活についても問うことができそうです。こういったコンペでは、プライベートとパブリックの境界を読み替えて生活を共有するというシェアの発想に基づいた提案がよく見られます。そういう考えをポジティブに受け止められる賃貸住宅が新しい街の風景をつくり出すという方向性にも発展させられそうです。

鍋島  風景と街並み、同じようで相当違います。提案する方たちそれぞれに新たな位置付けを問いたいですね。

五十嵐  僕は、都心の場合の風景が、街並みということになってくるんだと思っています。

鍋島  大体のエリアやイメージでも設定しておいた方が考えやすいかもしれません。北海道なのか東京なのかでも随分変わってきます。

五十嵐  卒業設計などによく見られますが、特化した場所を設定すると特化した建築をつくりやすいですよね。しかし今回は、特殊な事例、例えば草原の中の賃貸住宅などはやはり現実的ではないと思います。人が借りることを前提とした現実的な場所の提案が出てきて欲しいので、敷地は決めた方が良いのではないでしょうか。

浅野  地方でも都会でも、そこには人の集いがあります。特殊な状況の中での人の集まりではなく、ある程度普通に人がいるところでのアイデアをお願いしたいと思います。

小泉  あまり具体的なことを規定しすぎるとやりにくくなってしまうでしょうから、課題設定としては、一般的な都市郊外を対象として、くらいでアイデアを募るのはいかがでしょうか。

一同  賛成です。


賃貸住宅にできることを、もっと

──最後に、応募者へのメッセージをお願いします。

五十嵐  まず人が住むことが大前提なので、住む人が心地良いと思えたりその場所が好きになれたりといったかなり根源的なことが大事だと思います。本当に良い空間ならば住みたいと思うはずだし、ずっと住み続けたいと思うはず。そういう提案を見てみたいです。

小泉  この課題での風景とは、ハードがつくる風景と、ソフトがつくる風景の両方があると思います。ハードとしての建築がつくる街並みもありますし、ソフトとして人びとのアクティビティがつくりだす風景もあるでしょう。それらをどう重ね合わせていくのかが鍵になってきそうです。おもしろい提案を期待しています。

鍋島  賃貸でできる新しい街並みが、今まであった街並みを変えるきっかけになり得ることに期待していますし、住宅と今までの街の相互効果まで考えられた提案がでてくるとすごく良いと思います。

浅野  みなさんが提案する賃貸住宅で、今ある街並みが新しい風景に生まれ変わるかもしれません。期待しています。「賃貸住宅にできることを、もっと」よろしくお願いいたします。

(2012年7月24日、大東建託本社にて 文責:本誌編集部)

 

テーマ座談会の模様