三井不動産と新建築社が共催する「第2回住空間デザインコンペ」の審査会が開催され、入賞作品が選出されました。今回は「(仮称)港区港南3丁目計画Aタイプ住戸ユニット」が対象で、最優秀案の提案者によりその販売用モデルルームのひとつが製作されます(2004年春完成予定)。審査会は、青木淳、妹島和世、光井純、磯辺真幸の4氏により行われ、応募作品438点(応募登録:1,255件)から8点の作品が選ばれました。
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最優秀賞
賞金100万円
石川 博将(東京理科大学大学院)
大平 佳規(フリーランス)
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優秀賞
賞金50万円
中原 英隆(フリーランス)
金子 哲(日本大学大学院)
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優秀賞
稲富 宏郎(芦原太郎建築事務所)
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佳作
賞金10万円
栗原 健太郎(studio velocity)
岩月 美穂(studio velocity)
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佳作
高山 武士(広島大学)
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佳作
田中 智之(早稲田大学)
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佳作
南 俊允 (東京理科大学)
早川 龍星 (東京理科大学)
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佳作
松島 弘幸(dma/ダブルエム・アーキテクツ)
福田 能梨絵(bdds)
森 但(dma/ダブルエム・アーキテクツ)
※ 色味は実物と異なっています
青木淳
(建築家/青木淳建築計画事務所代表)
これだけ多くの集合住宅が,しかも昨今ではある程度余裕のある住戸面積をもってつくられているのに,周りを見渡してみて,なぜベーシックな意味でいい部屋がないのだろうか.ベーシックな,というのは,このコンペの課題にもあったように,表面的な華美ではなく,自分たちが生活するうえで気持ちのいい空間という意味での「合理性」のことだ.
最優秀賞の石川・大平案は,その点で,空間の優劣に関して,ある可能性をもったはっきりとした意見に基づいた案だった.つまり子供部屋に使われるだろうふたつの個室に窓を設けなかったのだ.子供部屋は,睡眠など,籠るための空間で結構.自然の採光も通風も要らない.子供部屋にそういう快適性を求めることよりも,普段いるところを明るく,またシンプルなかたちで広くもちたい.ここには,そんな空間の優劣に関するはっきりとしたヒエラルキーがある.
石川・大平案がそれを徹底したことによって,少なくともふたつの点で,一般的な評価に抵触している.まず,建築法規が求める採光条件である.これは,隔壁の処理によって解決可能であるとはいうものの,むしろ法律のほうが「いい家」をつくることの制約になっているといったほうがよい.それから,現行法規に従うために隔壁の処理を行えば,ふたつの個室は公式には1室空間にならざるをえないだろうから,結局,この家は「3LDK」ではなく「2LDK」と表記されることだろう.このことが,これを取得した人がいざ売却しようとしたときにけっして有利には働かないことは,現在,集合住宅が「そこで住むための空間」であることに加えて「それをいつでも有利に売れる不動産」であることを考えれば明らかである.つまり,この美しい案は,法規の精神と市場原理の双方に対して反抗しているのだ.
しかし,「合理的」に住むことは,売りやすいことより住んでいて快適ということを採ることだし,そういう個々人の欲求に対して法律が規制すること自体,実に不合理なのである.このタイプの住戸が,現実に多く売れることを期待している.
妹島和世
(建築家/妹島和世建築設計事務所代表,慶応義塾大学教授)
昨年より課題の設定が私たちの生活に近づいたからであろうか,具体的で快適な生活像が想像できるプランがたくさん提案されたと思う.ただ同時にそれらは,いくつかのタイプに分類もできたと思う.私としては,どの程度分割するか,そこがどのようなスペースになるかというバランスがここでは重要ではないかと思った.その中で私としてはこの規模で,スペースが2方向に開いているという状況において,快適なリビングダイニング,そして個室,両方が成立できる案がよい案ではないかと考えた.それぞれのタイプは優劣つけ難かったが,最優秀賞の石川・大平案は全体的にバランスがよかったと思う.
この規模で必要以上に個室を圧迫する必要はないと思われたが,佳作の高山案は,あまりに極端で本当に大きなワンルームが提案されていて魅力があって惹かれた.
光井純
(建築家/シーザー・ペリ アンド アソシエーツジャパン代表)
今回は課題の中に与えられた具体的な制約が多かっただけに,家族,棲むこと,自分の時間について,細やかな分析と注意深い思考の整理が必要とされた課題であった.
最優秀賞の石川・大平案は港南タワーの角住戸であることをもっともシンプルに端正に生かした案である.構造はインナーフレームであり,バルコニーには開放感があることもしっかりと読み込まれている.でき上がると屋外までの全体が家族の広場のように感じられそうである.ただし,内陸側の個室の居住性については,実現に当たって今後の検討が必要である.
応募案の中で記憶に残ったものを挙げると,優秀賞の稲富案はシンプルながら多くの示唆に富んでいる.巨大storageとshared spaceの考え方は今後さらに展開すると面白い.
佳作の松島案は,いわばプロムナード型広場住居ともいえるもので,家族のざわめきが聞こえてきそうである.パーティションへの過度の依存は慎む必要がある.また,佳作の栗原・岩月案は奥へと渦巻きのように人を導くアイデアが大変面白かったが,その反面印象として空間が細切れに感じられたかもしれない.また,バルコニーと内部空間の関係のつくり方にやや配慮不足が感じられた.
全体的に昨年と比べ,応募案はよりリアリティと洗練が進んだという印象であった.審査員の方も,実現して本当に住まい手が感動してくれる空間であるかどうか,かなり真剣に議論を交わしたと考えている.
磯辺真幸
(三井不動産住宅事業本部執行役員)
幅広いデザイナーの方の優れたアイデアを実際の分譲マンションに活用させていただく場として,また,マンションを購入される方々と新進気鋭のデザイナーとの出会いの場として,私どもと新建築社では昨年より「住空間デザインコンペ」を共催して参りました.
第1回目の昨年は400点を超える応募をしていただき,最優秀賞となった廣田敬一さんの提案は,『パークマンション千鳥ヶ淵』のモデルルームとして今年4月に一般公開.実用性とデザイン性を両立させた快適な住空間が多くのお客様から高い評価をいただきました.
第2回の今年のテーマは「等身大の都心居住」.都心居住というとひとり暮らしやDINKSなど,一部の少人数家族の住まいというのが従来のイメージでしたが,近年,都心エリアでの大規模マンション開発が進み,山手線徒歩圏内でありながら,広さ・価格ともファミリー向けの物件が供給されるようになり,都心居住が身近なものになってきました.
そこで今年は,ファミリーで都心居住を楽しむための住空間デザインはどうあるべきかを課題といたしました.また,よりリアリティのある提案をしていただくために家族構成を40代共働き夫婦・中学生・小学生の4人家族と具体的に設定いたしました.
今回の応募作品数は昨年を上回る約440点.そのどれもが熱意のこもったすばらしい提案で,住空間デザインのもつ可能性と奥深さをあらためて認識させていただきました.この場を借りてご応募いただいた方々にお礼を申し上げます.昨年よりもテーマを具体的に絞った分,昨年以上に実現性の高い提案が多かったように感じました.
今回の最優秀賞である石川・大平案も実際のモデルルームとして,来春,皆様にご披露させていただく予定です.今後も「住空間デザインコンペ」を通じて,デザイナーの方々と共に,分譲マンションの住空間に対して斬新な提案をして参りたいと考えております.
これだけ多くの集合住宅が,しかも昨今ではある程度余裕のある住戸面積をもってつくられているのに,周りを見渡してみて,なぜベーシックな意味でいい部屋がないのだろうか.ベーシックな,というのは,このコンペの課題にもあったように,表面的な華美ではなく,自分たちが生活するうえで気持ちのいい空間という意味での「合理性」のことだ.
最優秀賞の石川・大平案は,その点で,空間の優劣に関して,ある可能性をもったはっきりとした意見に基づいた案だった.つまり子供部屋に使われるだろうふたつの個室に窓を設けなかったのだ.子供部屋は,睡眠など,籠るための空間で結構.自然の採光も通風も要らない.子供部屋にそういう快適性を求めることよりも,普段いるところを明るく,またシンプルなかたちで広くもちたい.ここには,そんな空間の優劣に関するはっきりとしたヒエラルキーがある.
石川・大平案がそれを徹底したことによって,少なくともふたつの点で,一般的な評価に抵触している.まず,建築法規が求める採光条件である.これは,隔壁の処理によって解決可能であるとはいうものの,むしろ法律のほうが「いい家」をつくることの制約になっているといったほうがよい.それから,現行法規に従うために隔壁の処理を行えば,ふたつの個室は公式には1室空間にならざるをえないだろうから,結局,この家は「3LDK」ではなく「2LDK」と表記されることだろう.このことが,これを取得した人がいざ売却しようとしたときにけっして有利には働かないことは,現在,集合住宅が「そこで住むための空間」であることに加えて「それをいつでも有利に売れる不動産」であることを考えれば明らかである.つまり,この美しい案は,法規の精神と市場原理の双方に対して反抗しているのだ.
しかし,「合理的」に住むことは,売りやすいことより住んでいて快適ということを採ることだし,そういう個々人の欲求に対して法律が規制すること自体,実に不合理なのである.このタイプの住戸が,現実に多く売れることを期待している.
妹島和世(建築家/妹島和世建築設計事務所代表,慶応義塾大学教授)
昨年より課題の設定が私たちの生活に近づいたからであろうか,具体的で快適な生活像が想像できるプランがたくさん提案されたと思う.ただ同時にそれらは,いくつかのタイプに分類もできたと思う.私としては,どの程度分割するか,そこがどのようなスペースになるかというバランスがここでは重要ではないかと思った.その中で私としてはこの規模で,スペースが2方向に開いているという状況において,快適なリビングダイニング,そして個室,両方が成立できる案がよい案ではないかと考えた.それぞれのタイプは優劣つけ難かったが,最優秀賞の石川・大平案は全体的にバランスがよかったと思う.
この規模で必要以上に個室を圧迫する必要はないと思われたが,佳作の高山案は,あまりに極端で本当に大きなワンルームが提案されていて魅力があって惹かれた.
光井純(建築家/シーザー・ペリ アンド アソシエーツジャパン代表)
今回は課題の中に与えられた具体的な制約が多かっただけに,家族,棲むこと,自分の時間について,細やかな分析と注意深い思考の整理が必要とされた課題であった.
最優秀賞の石川・大平案は港南タワーの角住戸であることをもっともシンプルに端正に生かした案である.構造はインナーフレームであり,バルコニーには開放感があることもしっかりと読み込まれている.でき上がると屋外までの全体が家族の広場のように感じられそうである.ただし,内陸側の個室の居住性については,実現に当たって今後の検討が必要である.
応募案の中で記憶に残ったものを挙げると,優秀賞の稲富案はシンプルながら多くの示唆に富んでいる.巨大storageとshared spaceの考え方は今後さらに展開すると面白い.
佳作の松島案は,いわばプロムナード型広場住居ともいえるもので,家族のざわめきが聞こえてきそうである.パーティションへの過度の依存は慎む必要がある.また,佳作の栗原・岩月案は奥へと渦巻きのように人を導くアイデアが大変面白かったが,その反面印象として空間が細切れに感じられたかもしれない.また,バルコニーと内部空間の関係のつくり方にやや配慮不足が感じられた.
全体的に昨年と比べ,応募案はよりリアリティと洗練が進んだという印象であった.審査員の方も,実現して本当に住まい手が感動してくれる空間であるかどうか,かなり真剣に議論を交わしたと考えている.
磯辺真幸(三井不動産住宅事業本部執行役員)
幅広いデザイナーの方の優れたアイデアを実際の分譲マンションに活用させていただく場として,また,マンションを購入される方々と新進気鋭のデザイナーとの出会いの場として,私どもと新建築社では昨年より「住空間デザインコンペ」を共催して参りました.
第1回目の昨年は400点を超える応募をしていただき,最優秀賞となった廣田敬一さんの提案は,『パークマンション千鳥ヶ淵』のモデルルームとして今年4月に一般公開.実用性とデザイン性を両立させた快適な住空間が多くのお客様から高い評価をいただきました.
第2回の今年のテーマは「等身大の都心居住」.都心居住というとひとり暮らしやDINKSなど,一部の少人数家族の住まいというのが従来のイメージでしたが,近年,都心エリアでの大規模マンション開発が進み,山手線徒歩圏内でありながら,広さ・価格ともファミリー向けの物件が供給されるようになり,都心居住が身近なものになってきました.
そこで今年は,ファミリーで都心居住を楽しむための住空間デザインはどうあるべきかを課題といたしました.また,よりリアリティのある提案をしていただくために家族構成を40代共働き夫婦・中学生・小学生の4人家族と具体的に設定いたしました.
今回の応募作品数は昨年を上回る約440点.そのどれもが熱意のこもったすばらしい提案で,住空間デザインのもつ可能性と奥深さをあらためて認識させていただきました.この場を借りてご応募いただいた方々にお礼を申し上げます.昨年よりもテーマを具体的に絞った分,昨年以上に実現性の高い提案が多かったように感じました.
今回の最優秀賞である石川・大平案も実際のモデルルームとして,来春,皆様にご披露させていただく予定です.今後も「住空間デザインコンペ」を通じて,デザイナーの方々と共に,分譲マンションの住空間に対して斬新な提案をして参りたいと考えております.