主催:長谷工コーポレーション  後援:株式会社 新建築社

最新情報

2013年2月1日
「結果発表」「審査講評」「作品展示会のお知らせ」をアップしました。
2012年10月2日
「HASEKO Architect Design Forum 2012」(入選作品発表・表彰式、審査委員講評)観覧希望受け付けを開始しました。
2012年7月5日
応募登録受け付けを開始しました。
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自分の身の回りの状況と向き合うことで,よりクオリティが高くなった提案が印象に残った.場所に対する愛着と客観的に場所を捉える両方の視点を持つことが,建築をつくる時には必要なのではないか.これから設計に取り組む際も実際に敷地に通い,場所を知った上でそれを建築の提案の強みにしてほしい.
「へだたりのつながり」は「ネコのように住まう」という視点を設定することにより,集合住宅だけでなく,都市観そのものを変える強さを持った案.家を隔てる塀の代わりに家具を巡らせることで,街全体に共用部が広がり,豊かな生活をつくり出しているところに魅力を感じた.
「遠回りの家路/風景のRe-design」は建築としてしっかり解かれた案.場所に対する愛着と客観的に場所を捉える両方の視点を持っていると感じた.屋根の上という共用部を繋ぐことで,新しい街の風景を生み出しているところに興味を引かれた.
「Re Border —敷地境界線のリノベーション—」は敷地境界線をずらし,ひとつの住宅を複数の世帯で共有したり,ひとつの世帯が複数の住宅にまたがって生活することで新たな可能性を見出している.平面計画からアプローチしており,ほかにはない提案であった.
「2.6kmの思い出」は鉄道のローカル線から物語を探し出し建築化した案.震災の影響を受けた東北のローカル線の動向に注目が集まる中,この提案は非常に魅力的だと感じた.鉄道という要素をよりシンプルに活用できていると,もっと強度を持った案になっていたのではないかと思った.

今回は敷地選びから問いかけるコンペだった.そのため,さまざまな題材が取り上げられており,若い学生のみなさんが着目しているものや場所が見えてきて,興味深い審査となった.集合住宅という型にとらわれず,人びとが住まう場所の根源的な要素から案を組み立てているものや,集合住宅を通して街全体を変えていこうとする案が多かった.
「30人の大家と3000人の観光客」は道頓堀という観光地化した街に人びとの生活を持ち込むという視点が面白い.その場所ならではの人びとの流れを上手に案に組み込んでいる.建築単体にとどまらず,集合住宅という新たな要素を街に取り入れることで,道頓堀をより豊かなものにする力を持った案.
「病院×都市 〜老いと病いとともに暮らす〜」は単身の高齢者が暮らす住宅の余剰空間を利用した案.外からではわからない部分に着目しており興味を引かれた.また,高齢化社会や過疎化など多くの地域が抱えている問題をリノベーションによって解決しようとしており,強く共感できた.
「私の場所がつくる都市,都市のなかの私の場所」は,既存の一戸建ての住宅群に床スラブを挿入していく案.メインのパースから,床の軽さや風景のバランスのよさを感じた.平面図などをもう少し具体的に表現できていればよりリアリティが増して力を持った案になったと思う.

自分たちの身近な場所を題材にしているためか,場所の状況がしっかりと読み込まれており,全体の作品のクオリティが非常に高かった.単なる図式的や理念的な提案ではなく,実際の生活をイメージできる案が多く,それらには強く共感できた.
「地車巡家」は祭りと地域の人びとの関係を深め,街を再生させようとしていることにリアリティを感じ,引きつけられた.だんじりが巡ることで,街にどのような影響をもたらすのか,想像力をかき立てられた.いい意味で謎めいた案である.
「30のエントランスをもつ大豪邸」の視点が非常にユニーク.住宅というどこにでもあるものを題材にすることでどの街にでも転用可能であり,大きな可能性を感じた.その一方で,外部への繋がりや内部の連続性などリノベーションの手法を工夫すれば,より強い提案になっていたのではないかとも感じた.
「house of seam」は工場の大きさと人の住む空間の小ささを上手く対比させた提案.そこに生まれるギャップが生活の豊かさになってくるのではないかと感じた.平面図のみで表現していたが,非常に想像力をかき立てられた.
「Assembly Apartment」は工場を小さなひとつの単位として捉え,それを増殖していくことで工場立体都市とも言えるものを提案していた.工場が集合し連携することで,工場そのものを再生させようとしている部分に魅力を感じた.

集合住宅を含めた建築の分野では,建築のストックの活用や建築を通した街の再生などが求められるようになり,大きな転換期がきているのではないかと感じている.今回の多くの提案は,そのような状況をしっかりと捉え,リノベーションという手法を用いて豊かな生活を描いていたと思う.
「へだたりのつながり」は住宅地に巡らされた塀をリノベーションし,街路を住宅群の共用空間とすることで,どこにでもある戸建て住宅群を集合住宅として提案している.テーブルなど身近なものを用いており,リアリティを感じられ非常に高く評価できる.
「custom-ism 未完の団地」は,昨今盛んに行われている老朽化したRC造の建物の耐震補強に視点を当てた提案.耐震補強を通した豊かな生活空間の提供や,人の生活が溢れ出すファサードによる新しい景観の創造など,多面的に考慮されている.非常に実現性が高く,今の時代に沿った提案であると感じた.
「思い出のハコ」は取り壊される小学校を集合住宅にリノベーションする案.増築や減築によって,単身者用やSOHOなどさまざまな住戸をつくり出している.小学校は地域の中心という一面もあるため,周辺地域との繋がりも考慮されているとさらによかった.
「住−住−TRAIN 〜にぎわいを運ぶ〜」は電車そのものを建築として利用しており,共用廊下として利用される列車の内部空間に可能性を感じた.集合住宅に住む人たちや,地域の人たちが電車の内部で混じり合うことで豊かなコミュニティが生まれるのではないかと思った.